書庫(蜃気楼)
□おめでとうが言いたくて
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「新八様、新八様」
志村新八は自分を呼ぶ声で目を覚ました。聞き覚えのある声だとは思ったが、起きたばかりで記憶が定かではない。まずは、声のする方へと話しかけてみる。
「誰、誰なの?僕の事を呼んでるのは」
「迷惑かなと思ったけど、どうしても会いたくて。押しかけてきちゃった」
その声を聞いて、新八は思い出した。新八は最初に呼びかけられたとき、即座に思い出せなかった自分を責めた。
「パンデモニウムさん、パンデモニウムさんなんだね?どうして、ここに?」
「新八様、お誕生日おめでとう。これを伝えたくて、新八様の元へやってきたの」
「え、誕生日?」
新八は半ば自分の誕生日を忘れていた。パンデモニウムからの言葉で、そういえばと思い出した。日々のグダグダ、さらに何だか知らない多忙感の中で、自分の誕生日を省みる暇がなかった。
「ありがとう、パンデモニウムさん。僕、自分の誕生日を忘れていたみたいで、君に言われて思い出したんだ。ダメだよなあ、自分の誕生日を忘れるなんて」
「私が覚えているから。たとえ新八様が忘れても、私が知らせに行くから。たとえ誰もが新八様の誕生日を祝わなくても、私だけは必ずあなたを祝いに行くから」
「パンデモニウムさん・・・その言葉を聞けただけで、僕には最高のプレゼントだよ。こんなにも僕の事を思ってくれてるなんて」
新八がパンデモニウムに感謝の言葉をかけると、パンデモニウムはしきりに前髪をいじりはじめた。新八には分かっていた。それはパンデモニウムが照れ隠しに行う仕草であることを。
「会いたかったよ、パンデモニウムさん。いつも君を忘れた事なんてなかった」
「私も・・・会いたかった。けど、なかなか自由に会うことは出来ないから。だからこそ、こうした特別な日に会えたことが嬉しい。だって、お祝いを言えて、喜んでいるあなたの顔が見れるんですもの」