書庫(蜃気楼)
□熱海よりも熱く、君を愛でたい(中編)
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電車に乗った志村新八とパンデモニウムは、しばらく押し黙ったままだった。新八はパンデモニウムをじっと見ていた。
(けっこう、パンデモニウムさんって・・・けっこう、あるんだなぁ胸が。いやいや、いかん!そんなヤらしいことなんか。でも、熱海にそんな事を期待しちゃってる僕もいて)
「新さん、新さん」
パンデモニウムに呼ばれて、新八は我に返った。
「新さん、さっきから呼んでるのに、上の空なんだもの」
「いやあ、ゴメンゴメン!上の空にもなるよう、だって」
新八の脳内のスーパーコンピューターがフル回転する。最適な答えを導き出すために。そして、弾き出した答えは。
「パンデモニウムさんに見とれてたんだ。キレイな顔立ちや、その触覚とか」
(いかああぁんん!!!何言ってんだよ、このくそスパコン!変なこと付け加えたよ、どうしようもないモン加えたんだけど)
「新さんでも、そんな冗談言うんだねぇ。私にそんなのはないよぉ」
「あ、あはははは、そうだよねえ。何かじっと見てたら、見えちゃったりしちゃったり。あはは」
「新さんたら、おかしい。でも、嫌いじゃないよ?そういう新さん」
何と言うか、何とも言えないがすごくいい。ほんわかしながらも、楽しそうに笑うパンデモニウムを見ていると熱海旅行が出来て本当によかった。そう新八は思っていた(まだ、熱海にも行ってないんだが)。
電車から見える景色を楽しむパンデモニウム。新八は彼女の表情を見ているだけでよかった。実際、パンデモニウム以外の景色は何倍速かのように新八には見えていた。
パンデモニウムはしばらく風景を見つめ続けていた。電車から見える風景もキレイだったが、新八と二人きりというのが新鮮でもあった。自然と口元がほころんでしまう。
「新さん」
「ん、何?」
「私、来られてよかった。すごくいい思い出になったよ。ありがとうね、新さん」
「パンデモニウムさん、まだ終わってないからね。熱海にすら着いてないからね」
「あ、そうだった。私ったら、変なこと言っちゃったね」
「まだまだ、僕たちの旅行はこれからだからさ。もうすぐ着くみたいだよ。さて、降りる準備でもしようか」
「うん!」
熱海に降り立った二人は、指定の旅館を目指して歩いていく。
「新さん、荷物大丈夫?私のは私が持つから」
「大丈夫、これくらい何てことないから。ええと、あ、見えてきた。あれだよ、パンデモニウムさん」
新八が指し示した先には、『山風亭』と大書された、旅館らしい建物の姿があった。