書庫(蜃気楼)
□魂掛けクレーン
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「ああ、そういえばアレが近くなってきましたね。銀さん」
「アレ?」
「バレンタインですよ」
「はあ、まったく。チョコ会社の陰謀に毎年毎年」
バレンタインが近づいている。“もらう者 もらわぬ者も 気もそぞろ by:馬胡丙”という川柳があるように、その日は男たちの心に細波を立てる。
そこに神楽がやってきた。
「何、モテない男どもが算段してるアルカ?バレンタインの無駄な対策会議アルカ?」
「違います〜!銀さんはモテるんです〜、何か持ってるんです〜。ここ最近、バレンタイン対策してるから大丈夫なんです〜」
「何、さらりと言ってんだ!それに僕だってアテはあるんだよ!」
「ほう、じゃあ、そのモテモテな方々にそのアテを聞くアル。はい、銀ちゃん」
「え〜と、妙、メス豚、九兵衛、月詠、あとは鉄子、辰巳、レイ、結野アナ。そして、俺を愛して止まない方々からだな」
「銀さん、言ってて恥ずかしくないですか?」
「銀ちゃん、六股やっておいて、その相手を数に入れるてのは無理な話アル。鉄子やら辰巳やらは、登場回数が少ないし、相手も覚えてるか眉唾物アル。レイに至っては幽霊だし、結野アナは論外、愛して止まない方々の想いは、この世界にはこれっっっぽっちも届かないアル。よって、私の見立てでは、銀ちゃんへのチョコは限りなく0に近いアル!はい次、新八ぃ」
「僕は姉上と、文通しているきららちゃん、くらいかな?」
「パンデモニウムさんと言わなかっただけ、まともアルナ。文通相手の娘は切れてる可能性が高いアル。“遠くの妻より近くの女”って言葉もあるし、近くの男に首ったけかもしれないネ。よって、私の見立てでは、新八はアネゴの一個だけアル。よかったな、銀ちゃんを上回ったアル」
「嬉しくない。何だかすっごく嬉しくない」
神楽にバッサリと切り捨てられ、銀時も新八も元気を失っていた。
「世の男どもは、何だかんだで気になる日アルカ。バレンタインという、見果てぬ夢を追って」
神楽は二人を放っておいて、新八の屋敷へ向かった。新八の姉である志村妙に会うためである。
「あら神楽ちゃん」
「アネゴ〜、今年はチョコを贈る予定はあるの?」
「そうね〜、今のところは『すまいる』の馴染みのお客さんに贈ろうと思ってるけど」
「去年は女の子らしい事をしてみたい。そう思ってただけアルが、今年はもう一歩踏み込みたいかなと思ってるアル」
「神楽ちゃん、それってまさか」
「今年は決めた男にチョコを渡す。そう決めたアル」
「へえ、神楽ちゃん、いるの?チョコあげたいって人が」
「秘密アル」
「そう。よかったじゃないの。そういう人が出来たってことは、いいことよ」
妙の言葉に、神楽は満面の笑みを返した。