書庫(蜃気楼)
□人には節を曲げねばならないときがある
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服部全蔵は吉原に行く回数が多くなっていた。彼は日輪に自分の腕を売り込み、日輪はそれに応じて全蔵の腕を買った(ブスっ娘倶楽部のVIP券にて)。いわゆるブス専として知られる全蔵であったが、ここに来て例外が誕生した。全蔵は日輪に興味を持つようになっていた。そして、全蔵は『ひのや』にやって来ていた。
「よぉ、日輪さん。今、お暇かい?」
「あら、全蔵さん。今は休憩中だから、しばらくはゆっくりしていられるけど」
「じゃあ、俺の茶話でも付き合ってくれるかい?」
「ま、ここは茶屋だからね。お付き合いしましょう」
「そいつは話が早い。なら、お邪魔させてもらうかな」
日輪が茶と茶菓子を用意していた頃、日輪の息子である晴太が飛び出てきた。
「あ、忍者のおじさん。いらっしゃい」
「おう、ぼんず。今から仕事か何かか?」
「当たり!今から仕事。おじさんは行くのかい?ブスっ娘倶楽部に」
「ナマ行ってんじゃねえよ、クソガキ。お前の店のローション、口の中にでも入れてやろうか?」
「うえ、嫌だよ。じゃあね、ごゆっくり」
「晴太・・・ごめんなさいね。環境が悪いのかしらねえ?」
「いいガキじゃねえの。なかなか出来てると思うぜ」
「そうかしら」
「ああ、あのまま育ってくれりゃあ」
「はい、どうぞ」
「こりゃどうも」
差し出された茶と茶菓子を全蔵は口にした。そこへ見回りから戻ってきた月詠がひのやに帰ってきた。全蔵の姿を認めると、月詠は彼に一礼した。
「珍しい客人じゃの、日輪。服部殿、先の件では、日輪を助けていただき礼を言う」
「礼なんざいらねえ。そこの御仁から、腕を買われた身の上だ。当然のことをしただけさ。嬢ちゃんは仕事かい?精が出るねえ、ここの奴らは真面目で結構なことだ。地上のあいつに見せてやりてえもんだな」
「銀時のことか?あの男は変わらぬ。もはや、あの生活が身に染みておるようでな」
「月詠、あんまり銀さんのこと、そんなに悪く言わないの」
「いや、本当のことじゃから。かと言って、銀時が真面目に働いておるとこを見れば、大いに違和感を感じるがの」
「で、また見回りに行く予定とかあんのかい?」
「いや、今日のところはこれで終わりでありんす。平穏ゆえ、部下に任せてきた」
月詠は自分の部屋に上がる際、日輪に告げた。
「ひ、日輪。わっちは、この後、野暮用があって地上へ行くことになったゆえ」
「はいはい。気をつけて行って来な。銀さんにもよろしくね。なんだったら、朝帰りとかもOKだから」
「な、何を言っておる。わっちは銀時の所へ行くとは言っておらぬ」
明らかに月詠の態度があたふたとしているのが分かる。月詠は逃げるようにぱたぱたと上に上がっていった。日輪はそんな月詠の姿を楽しみつつ、見送っていった。
「なんだい、あの嬢ちゃんはあいつの事が好きなのかい?」
「みたいだね。あの娘はね、これが初めての恋なんだ。月詠は女を捨てて、この吉原のために尽くしてきたの。銀さんたちが現れて、接するたびに普通の女としての情を取り戻していった。それがあたしには嬉しくてね。見てるだけで、顔がほころんでしまうのさ」
「いい事じゃねえの。そういう展開、俺は好きだぜ。俺、ジャンプで好きなのはラブコメ系だから。願わくばハッピーエンドで終わってほしいもんだ。アンハッピーは好きじゃないんでね」
「ああ。あの娘には幸せでいてもらいたいからね」
「あんたは・・・どうなんだよ?」