書庫(蜃気楼)
□鏡台に映った君が妖しく艶やかだったんで
1ページ/8ページ
「何か変わったね、幾松ちゃん」
「え、どこが変わったって?」
ラーメン店・『北斗心軒』の女店主の幾松は鍋を振るいながら答えた。
「前より客が多くなって繁盛してるじゃないの。テレビ効果だね」
「お陰様でね。けど、あの時は最悪だったんだから。店の中、破壊されちゃってさ。でもまあ、あの後、ちゃんと弁償させたから良かったけど。災い転じて何とやらってね。はい!チャーハンお待ち」
客の言うとおり、最近ではテレビ番組で、ある男のインタビュー場所に使用された。それ以来、店の名前が知られるようになった。テレビを見た人々が店に足を運ぶようになり、昼どきにはてんてこまいの忙しさに幾松は追われていた。
注文された品を出して、さらに注文を聞いて調理に入る。調理中の幾松に馴染みの客が言った。
「店のこともあるけどね、あんたも変わったよ」
「えっ、どこがよ!」
「何ていうか、艶っぽくなったっていうか、肌つやいいなって」
この話に別の客も加わった。
「おお、色っぽくなったっていうかさ。ほんと、口説いてしまいてえなと思ったりしてさ」
「ダメだよ。幾松ちゃんは男を近づけたことないんだから」
「そんなこと言ったって、何も出やしないよ!はいっ、お待ち!」
「・・・幾松さんよぉ。もやしいっぱいなんだけど。いっぱいすぎて麺や具が見えねえよ」
そんなこんなで昼時のピークも一段落し、少しばかりの余裕が生まれたとき、幾松はテレビのニュースに目を奪われた。弁天堂のOweeが発売中止になったというニュースだった。それ自体に幾松は何の興味もなかったが、その映像の内容に彼女は目を奪われた。ヒゲをたくわえ、変な格好をしてはいるが、幾松にはすぐに分かった。
「何やってんの?あいつ」