書庫(蜃気楼)

□鏡台に映った君が妖しく艶やかだったんで
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「何か変わったね、幾松ちゃん」

「え、どこが変わったって?」


ラーメン店・『北斗心軒』の女店主の幾松は鍋を振るいながら答えた。


「前より客が多くなって繁盛してるじゃないの。テレビ効果だね」

「お陰様でね。けど、あの時は最悪だったんだから。店の中、破壊されちゃってさ。でもまあ、あの後、ちゃんと弁償させたから良かったけど。災い転じて何とやらってね。はい!チャーハンお待ち」


客の言うとおり、最近ではテレビ番組で、ある男のインタビュー場所に使用された。それ以来、店の名前が知られるようになった。テレビを見た人々が店に足を運ぶようになり、昼どきにはてんてこまいの忙しさに幾松は追われていた。

注文された品を出して、さらに注文を聞いて調理に入る。調理中の幾松に馴染みの客が言った。


「店のこともあるけどね、あんたも変わったよ」

「えっ、どこがよ!」

「何ていうか、艶っぽくなったっていうか、肌つやいいなって」


この話に別の客も加わった。


「おお、色っぽくなったっていうかさ。ほんと、口説いてしまいてえなと思ったりしてさ」

「ダメだよ。幾松ちゃんは男を近づけたことないんだから」

「そんなこと言ったって、何も出やしないよ!はいっ、お待ち!」

「・・・幾松さんよぉ。もやしいっぱいなんだけど。いっぱいすぎて麺や具が見えねえよ」


そんなこんなで昼時のピークも一段落し、少しばかりの余裕が生まれたとき、幾松はテレビのニュースに目を奪われた。弁天堂のOweeが発売中止になったというニュースだった。それ自体に幾松は何の興味もなかったが、その映像の内容に彼女は目を奪われた。ヒゲをたくわえ、変な格好をしてはいるが、幾松にはすぐに分かった。


「何やってんの?あいつ」
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