書庫(蜃気楼)

□あなたに恋い焦がれ
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ここは志村家。志村新八は自室にて、ぼんやりと天井を見つめていた。一人でいると、なぜかある存在が頭の中に浮かんでいく。

「どうして、気になるんだろう。こんなに思っていたって、叶わないのは分かっているのに」


それはパンデモニウム食い競争(パン食い競争)にて心を通わせた、パンデモニウムのことである。あの短い中で、新八とパンデモニウムは心を通わせていた。しかし、パンデモニウムは相手の式神に食べられてしまったのだ。

その後、新八はパンデモニウムの供養を行った。そのとき、新八はパンデモニウムの声を聞いた(外道丸のアフレコ)。新八は確かに聞いた。あなたの心の中に生き続けると。普通であれば、『何だよ、そのベタなドラマ台詞』とツッコんでいるところだが、あのときの新八にはできなかった。


「パンデモニウムさん。僕たちはあのとき確かに心を通わせていたんだよね。どんなに想っていたって、あなたはもういない。二度と会えないってことも分かってる。でも、僕はあなたの言葉を忘れない。忘れたくないんだ」


新八の脳内には、パンデモニウムの短くも濃密なやりとりがリフレインされていた。思い返しても、鮮明に覚えている。キスをしたときの柔らかい唇。胸を触られたときの恥らう表情。どうしたらいいのだろう、自分は病気にでもかかってしまったのだろうか。叶わないものと整理をつけ、忘れようと試みても、彼女のことを忘れることはできなかった。

この頃の新八の脳内は、ほぼ同じ思考が無限ループしている。横に寝転がってみる。ぼんやりと外を見つめていると、自分の前にパンデモニウムの顔が浮かんだ。頬を紅色に染めながら、自分を見つめ返してくるパンデモニウム。もう、自分は重症なんだなと、新八は自嘲の笑いを浮かべた。


「ふああ、何だか眠くなってきたな。少し寝よう。寝てしまえば、こんなに思い悩まなくてもすむだろうし」


横になったまま、新八は目を閉じた。しばらくして、新八は規則正しく寝息を立てていた。
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