書庫(短編)
□近くて最強の強敵
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月詠でありんす。最近、気になることが出来たんじゃが。まあ、それは今まさに起こっておるんじゃが。
「はい、銀さん」
「あ、あんがとよ、日輪さん」
「・・・」
万事屋の坂田銀時。わっちらの住む『ひのや』にちょくちょく顔を見せておりんす。まあ、知らぬ仲ではない。
気にかかること。それは、銀時と日輪がゆっくりではあるが、関係が接近しておるということじゃった。何と言うか、近すぎるじゃろ?と、心の中でツッコミを入れておりんした。
「いやあ、本当にうまいわ。こんなにうまいメシはなかなか食えないよ、日輪さん」
「あらあら、そんなこと言っても何も出ないわよ。でも、そう言ってくれるとお世辞でも嬉しいわね」
「いやいや、銀さん、お世辞とか言わない派だから。本当に」
「銀さん、がっついて食べ過ぎ。落ち着いて食べなよ」
「銀さん、晴太に言われちゃったわね。誰も取りはしないから、落ち着いて食べなさいね」
「だって、これうますぎでしょう。こんなの毎日食えたら幸せだもの」
「あ、銀さん」
「口元にご飯粒が」
日輪は銀時の口元に付いた米粒を見つけた。指摘された銀時がそれを取ろうとしたとき。日輪は米粒を摘まむと、自らの口へと運び入れたんじゃ。
銀時は呆気にとられた様子じゃった。日輪は変わりなく、事もなげにサラリと言ってのける。
「もったいないじゃない。銀さん、品が悪いわ。まあ、そういうトコ、嫌いじゃないけど」
何故じゃろう?はたから見れば、ほのぼのな風景に見えるのに、わっちはそれを素直に受け入れられぬのは。
一滴、その小さな一滴がわっちの心を揺り動かしていく。わっちの意識しない間に、その一滴が波紋のように広がっていくのを、わっちは知らずにいた。
「ごちそうさま」
「あら、月詠、もういいのかい?」
「うむ。見回りがあるゆえ、早々に支度をせねばならぬ」
「そう。気を付けてね」
いたたまれない気持ちになった。銀時と日輪が仲睦まじくしておる場面を見たくなかったから。
本当は見回りの予定などなかった。じゃが、いたくはなかった。意識することなどない。わっちの心は変わりはせぬ。そう言い聞かせながら、支度を済ませて見回りへ向かった。
「では、日輪。行ってくる」
「あいよ、気を付けていくんだよ」
「また無理して怪我すんじゃねえぞ!」
「よ、余計なお世話じゃ。ぬしも用がなければ帰りなんし。日輪にも迷惑がかかるじゃろうに」
「月詠、銀さんにひどいこと言わない」
「・・・行ってくる」