書庫(短編)
□去年の自分を超えていけ
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月詠は日輪のおつかいで地上に出ていた。頼まれた物を買い込んでいくと、月詠の目に嫌でも飛び込んでくる物があった。
“ハッピーバレンタイン ”、“好きなら気持ちをチョコに込めて”というお約束な販促POPがそこかしこに設置されている。客の目を引きやすい場所に、特設コーナーが置かれていた。
月詠はため息をつきながら呟いた。
「もう、そんな季節なんじゃなあ。早いものでありんすな」
時間的に余裕があったので、月詠は一通り特設コーナーを見て回ることにした。様々なチョコレートが並べられ、価格も様々であった。
「あらためて見ると、何というか圧倒されてしまいんす。色々と面倒じゃし、前年の猿飛のように“クレオパトラ作戦”やったほうが早い気もするんじゃがな。ふむ、どうしたものか」
月詠は、しばらく特設コーナーを見つめたあと『ひのや』へ戻った。
「ご苦労様」
「日輪の頼まれものは買うことが出来んした」
「そうかい。ほら、お茶用意したから、茶の間へ来なさい」
「うむ」
茶の間には晴太もいた。一足先に茶をすすっていた。
「晴太、戻っておったか。店の方は?」
「今日は終わったんだ。さっき帰ってきた」
「そうか」
日輪も加わって、三人揃って茶をすすったり、茶菓子を食べたりする。
「そういえば、もうすぐバレンタインだねえ。オイラ、もらえるかな?」
「もらえるだろうさ。あんたがいい男ならね」
「まずは、母ちゃんと月詠姐だろ。あと、地上のたまさんとか。そうだ!神楽ちゃんからもらえるかな」
「晴太、必死じゃの」
「去年だって、月詠姐が神楽ちゃんからのチョコ取り上げたじゃないか。忘れてないからね」
「確かに、ぬしは神楽とは仲が良かったな。大丈夫じゃ、今年ももらえるじゃろ」
「晴太は神楽ちゃんのこと、好きなのかい?」
「うん!好きだよ、神楽ちゃん」
「じゃあ、今年ももらえるといいね」
「うん!」
「月詠は?」
「万事屋さんらに送るんだろ?チョコ」
「ま、まあ、送ろうとは思うてはおる。まあ、今日見たら、けっこうな種類がありんした。そこで買っていっていこうと」
「そうかい。まあ、万事屋さんには、やっても損はないからね」
日輪は茶を飲みながら、月詠に言った。月詠はこれに頷いた。
「晴太、疲れただろ?部屋に戻って休んでな」
「わかった、じゃあお先に」
晴太は茶の間から去っていった。日輪は月詠に言った。
「月詠、買ったチョコを贈る。それでいいのかい?」