書庫(短編)
□お茶を引く(ディレクターズカット版)
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男達が血相を変えて、走り続けている。しかし、その行く手を何者かに遮られる。
遮った者たちはいずれも屈強であり、男達は一人、また一人と捕らえられる。逃げ延びた者らは裏路地へと入る。逃げ延びたと思った、その刹那。前方を見ると一つの人影が写っていた。
「ここまでじゃ。観念しなんし」
言葉が終わったあと、その姿は消えていた。男達が見失ったと気付いたとき、既に勝負は決していた。男達は後ろに回られたことすら気付かず、延髄に首刀を入れられて昏倒する。
「頭っ!」
「早く縛り上げよ。これで全員じゃな」
「はい、これで全員です」
吉原自警団・百華の頭、月詠。吉原にて不逞行為を働いた攘夷浪士らを取り押さえたところである。
集会所へと戻り、先ほど捕らえた者たちの取り調べを部下に指示する。月詠は部下たちに、次の案件はないかと尋ねた。
「次の案件はありんすか?」
「いえ、先ほどので全部終了しました」
「何、ないのか?ほれ、麻薬の受け渡しだの、紅蜘蛛党の残党どもとかあるじゃろう」
「ああ、それなら既に終了しています。現在、洗い出している最中ですが、浮かび上がっている案件は今回で全部です」
「マジでか」
「頭、そんなのいうキャラでしたっけ?とにかく今のところは、百華で処理する案件はありません」
月詠は驚きを隠せなかった。立て続けに不測事態は続き、百華はまさに東奔西走で働き続けた。それは部下たちの成長を促した。それを喜びながらも、月詠は何だかポッカリと穴が開いた気分になった。
「明日からは皆に休みでも取らせるか。働き詰めであったし」
「では、休みを」
「うむ。とりあえずは2日ほどは、基本的には完全休養とする。皆に伝えてくれ」
「わかりました。では、頭も」
「わっちは見回りを…」
「ダメです!頭も完全休養してください」
「ぬしらが頑張ってくれたから、案件がないという状態になっておる。じゃから、ぬしらはしっかりと休みなんし。あとはわっちが見回るだけで事足りる」
「頭、休むのも仕事です。休んだ方がよろしいかと、ていうか、休んでくださいっ!」
部下に押し切られる形で、月詠は休みをとることになった。