書庫(短編)
□君の名を呼べば
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月詠
あいつの名を呼べば、ある女の姿を思い出す。
月詠
あいつは吉原に売られたが、日輪のために自分の顔に傷を付け、女を捨てた。
月詠
あいつは他の人間のために体を張れるいい女だ。
月詠
いつしか俺は、あいつを追っていた。追っていたと言っても、さっちゃんとかじゃないからね。ストーカーとかしてないから。そこんとこは誤解しないように。
月詠
そういえば、あいつは俺にこう言った。顔の傷がなければ、違う道を歩めただろうかと。俺は傷一つないキレイな顔だと笑った。その後のあいつの笑顔は極上モンだった。柔らかくて、そして美しくて。
月詠
お前は自分が傷付くことをためらわない。だが、俺はそんなお前が大嫌いだ。
月詠
あの時、俺に縋りやがれと言ってやった。だが、俺は知っている。お前はギリギリまで誰かに縋ろうとはしない。まずは自分が乗り出していく。縋ってきたときは、大抵ボロボロになって、傷付いている。
月詠
傷付くお前を見ているのは、身体的に傷を負うよりも衝撃を受ける。だから、すぐにでも俺を頼ってくれないか?惚れた女が傷付くのを喜ぶ男なんていない。笑ってほしいんだ、いつだって。