書庫(記念・企画)

□生まれ来た命に多大なる祝福を
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「では、行ってくる」

「お、おう。ちゃんとヒッヒッフーすんだぞ。で、あとはな…」

「ふふ。産むのはわっちじゃと言うに。きっと無事に産まれてくる。ぬしとわっちの子じゃぞ、心配するでなし」


心配する坂田銀時をなだめるように、月詠は微笑んでみせた。銀時と月詠は結婚し、愛し合う二人の間には、いつしか新たな命を授かった。そして今、その命がこの世に出ようとするところであった。

月詠が分娩室に移ると、銀時は近くの待合室で成り行きを見守ることにした。しばらくして、分娩室から叫び声が聞こえる。

銀時はいたたまれない気持ちになり、気分を落ち着かせようとブラックコーヒーを口にする。自他ともに認める甘党の銀時ではあったが、それを忘れるくらいに心が乱れていた。


「俺が産むわけじゃねえのに、何だってこんなにプルってんだよ。どっしりと構えてりゃいいってのに。俺、プルってるわけじゃないから。武者震いだから、ああ武者震いだから。う〜ん、武者震いがするのう!」

「お母さん、あの人、何かブツブツ言ってるよ」

「しっ!聞こえちゃうから、変なこと言わないの。でも可哀想に。心配しすぎたのかしら、頭が真っ白になるくらいに」


銀時には周囲の声など聞こえていなかった。月詠の呻き声が、嫌でも耳に入ってくる。もし、子供と引き換えに月詠が死んでしまったら。あり得ないと否定しても、悪い考えが頭の中に沸き起こる。

やがて月詠の呻き声が止んだ。今度は赤ん坊の元気な泣き声が聞こえてきた。銀時の元に看護師がやってきた。銀時は思わず立ち上がり、看護師の発言を今か今かと待っていた。


「おめでとうございます。午後2時40分、元気な男の子ですよ」

「で、月詠は?カミさんは、大丈夫なんですか?」

「はい、母子共に健康です。しばらく準備がありますので、面会可能になりましたら、お知らせしますのでお待ちください」


看護師にそう言われ、銀時はふうっと息を吐きながら、再びソファに座った。月詠が無事であるという安堵感もあったが、それと同時に自分が父親になったのだということが、銀時にはいまいち信じられなかった。

やがて、面会可能との看護師からの知らせにより、銀時は月詠の元へと向かった。逸る気持ちを抑えながら、銀時は月詠と対面した。月詠は銀時に気付くと、ゆっくり顔を彼の方へと向けた。


「銀時、大丈夫であったろう?」

「おお、お前の言うとおりだった。よく、よく、頑張ったな。お疲れさん」

「ああ、産みの苦しみとはよう言ったもんじゃな。本当に苦しい思いをした。じゃが、傍におる赤ん坊を見ると、不思議とそれを忘れてしまいんす」


銀時は月詠の傍にいる赤ん坊を見る。小さくて、しわくちゃの顔をした赤ん坊がそこにいた。思わず銀時の目尻が下がる。それを見た月詠は銀時に語りかける。


「ぬしと、わっちの子供じゃ。大事にせねばならぬな。寂しい思いをさせぬように」


二人の脳裏に幼き頃の辛い思い出がよみがえる。自分のようにはさせたくない。二人の思いは一致していた。


「ああ、寂しい思いはさせねえよ。少なくとも、こいつには俺とお前がついている。寂しい思いなんかさせやしねえから。寂しい思いを知ってる俺たちだ。絶対に、させはしねえから」


銀時は赤ん坊を見ながら決意を語った。月詠はそれをうんうんと頷きながらそれに応える。目にうっすらと涙を浮かべながら。
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