書庫(記念・企画)

□恋は盲目とはよく言ったもの
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新年明けて、吉原の茶屋・『ひのや』にもたくさんの年賀状が送られてきた。ひのやの主人・日輪はこの吉原では知るものがいないほどの有名人である。さらに、吉原を変革するための指導者的立場も担っていた。ひのやと付き合いのある吉原の各店、そして日輪と関わり合いのある馴染みの客など、多岐にわたる人々から毎年年賀状が送られてくるのである。


「母ちゃん、すごいよね。また年賀状がたくさん来てるよ」

「まあ、店をやってるからね。その関係者から来るんだよ。あとは、昔からの馴染みのお客さんからもね」

「へえ、オイラにも年賀状とか来るかなあ。母ちゃんみたいには来ないだろうけど」

「晴太にも来るさ。晴太、年賀状来るのが落ち着いたら、整理するのを手伝ってくれるかい?」

「うん!いいよ」


二人が話している間にも、どんどん年賀状が送られてくる。ひっきりなしに送られて、流れが止まったのは昼をとうに過ぎた頃だった。


「うわあ、本当にすごいね。オイラ、こんなにいっぱいのハガキ、見たことないよ」

「明日も来るし、しばらくはこんな感じさ。じゃあ晴太、お願いね」

「うん」


晴太は日輪に言われるとおり、年賀状をある程度の区分に沿って仕分けていく。仕分けていっても、かなりの量である。日輪も晴太も疲れてきたので、休憩を取ることにした。


「母ちゃん、月詠姐は?まだ寝てるの?」

「年末年始は何かと騒がしいからね。あの娘も疲れたんだろ。寝させてやんな」

「そっか。月詠姐も大変だもんね。さあて、母ちゃん、また始めるかい?」

「うん、さっさと終わってしまって、ゆっくりしようよ。年賀状もあともう少しだし」

「わかった」


再び晴太が年賀状の仕分けを行っていく。しばらくして、晴太の手が止まった。それを怪訝に思った日輪が尋ねた。


「晴太、どうしたんだい?」

「か、母ちゃん、これって」


震えながら、晴太は一枚の年賀状を日輪に見せた。これを見た日輪は、しばらく固まった状態になっていた。

晴太は日輪の様子を見て、寒気が走るような感覚を覚えた。普段と変わらぬように見えるものの、何かが違う。ゴゴゴという擬音がしっくり来るような、静かなる怒りのようなものを感じた。

実際、日輪は年賀状を見て、ふつふつと怒りがこみ上げていた。それほど、この年賀状の内容が日輪らによって、いかに衝撃的であるかを物語っている。


「あの、天パァ、何をしてんのかしら。事と次第によっちゃあ、容赦しないわよぉ」


その年賀状の内容とは、坂田銀時が結婚したことを知らせるものだった。
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