書庫(長編)
□其ノ弐壱
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銀時と月詠に迫る、錐ン痔と廉敦。月詠は銀時を殺し、自らも命を断つという道を選んだ。
迫る錐ン痔と廉敦。二人は後ろから迫る殺気に気付いて振り返る。
一つの影が高速でこちらに向かってくる。飛び上がって、斬撃を繰り出したのを錐ン痔は受け止める。しかし、すぐさまもう一撃を食らい、錐ン痔は大きくよろめいた。
身構える廉敦を横目に睨み、鳥尾小耶太が言った。
「そろそろ終いにしようやあ。引きやんせ。じゃねえと、こんなんじゃあ済まなくなる」
「ふざけんな!さっさとやってしまいませう」
廉敦の言葉が終わらぬうちに、小耶太はあっという間に距離を詰め、刀を突きつけた。
「“神速の鋭峰”をあもうみんなや。甘いのは、いちごだけでええんじゃ。さっさと退いてくれや」
廉敦は返答に窮している間に、小耶太は銀時と月詠の傍に移動した。
「それにの、お前らの仲間が転がっとる。さっさと迎えに行ったらどうじゃ」
「嫌だと言ったら?」
「んな問答、わしゃあ嫌いじゃ。ここで朽ち果てる。みんなにタコ殴りされてのう」
そこへ伝令がやってきて、二人は為朝雄が引き上げたことを知る。ゆっくりと二人は退いていく。
「おい、為朝雄に言っておけ。このお礼はたっぷりさせてもらうからってな。後から、うちの坂田共々、きっちりとの」
「ならば、伝えよう。次はないぞ」
「次は殺してやりませう。早く、為朝雄様の元へ戻りませう」
錐ン痔と廉敦は退いていった。後から現れた隊士らは移動する準備を始める。
「銀時、大丈夫か?いや、大丈夫でないな。おい、丈夫な木を二本、布はないんか。とにかく急ごう。この道を行けば、天紋嶺への道に繋がるけえ」
「小耶太、すまん。わっちがついていながら」
「悔やむのは後にせえ。まずは戻って、銀時を治療せなんといかん。とりあえず、出血を止めんと」
「うむ、わかった」
止血の処置をほどこして、陣羽織や鎧を脱がせる。敵側の衣服を繋ぎ合わせた簡易の担架で、銀時を運んでいく。
隊列を整えたところで、出発を開始する。警戒を払いつつ、一刻も早く天紋嶺に着かねばならない。月詠は小耶太に聞いた。
「どうしてここが?」
「この轟音を聞いたからじゃ。何かあると思って、天紋嶺に向かったんじゃ。最初は砲撃のする方へ行こうとしたら、うちのモンに出会うての。そいつらの案内でこちらに来たいうわけじゃ」
月詠は偶然がもたらした奇跡に感謝した。持ち場を離れて、敵の追撃などもってのほかである。しかし、それが小耶太らの救援を引き入れるきっかけになったのだから。
「軍医にすぐに見せんとな」
「銀時は、銀時は、大丈夫であろうの!?小耶太、銀時は必ず生きて」
「心配ない。あいつは死なんよ。あいつにゃ、何かしらのご加護があるんじゃけえ」
雷刃隊は広い道を進んでいたのが幸いし、短時間で天紋嶺への道に出ることが出来た。天紋嶺への途上、阻むものもなく、無事に戻ることができた。しかし、この戦いで雷刃隊は、約2割の死傷者を出したのである。