書庫(蜃気楼)
□熱海よりも熱く、君を愛でたい(前編)
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「あれえ?新兄、どうかしたの?」
「晴太君、君に頼みたいことがあるんだけど、いいかな?」
新八が向かったのは吉原桃源郷だった。『大人のおもちゃ屋』にバイトしている晴太に、新八は会いに来たのだった。
晴太も新八とはそれなりに付き合いが長いので、彼の表情を見れば、何のために来たのか大体の察しはついている。
「で、『ひのや』じゃなくて、ここにオイラに会いに来たってことで大体は分かるけどさ」
「僕、付き合っている女の子と熱海に行くことになったんだ」
「へええええ!!!!新兄、女の人と熱海に行くんだあああ!?」
「晴太君、声が大きいって!」
「え、ああ、ごめんね。そりゃまた随分と思い切ったんだねってさ」
「でさ、僕、決めてしまおうかと思ってさ。階段を一段飛びで駆け上がる勢いで」
「新兄、それって・・・」
新八は下がったメガネをクイッと上げなおし、晴太に顔を近づけて言った。
「一戦、いやいや、一線を越えるつもりだよ。パンデモニウムさんと、この熱海旅行で僕は大人の階段を駆け上がるんだ」
新八の表情は、まさに真剣そのものであった。その表情に思わず晴太はひるんでしまった。ここまでの決意を聞かせられ、同じ男として協力しないわけにはいかない。
「わかった。オイラ、新兄の童貞卒業を応援するよ」
「ありがとう。晴太君、君ならそう言ってくれると思っていたよ」
「じゃあ、こんなのどうかな?」
晴太は店の商品から、ゴソゴソと何点か持ってきた。如才ない晴太は、店の扉に“本日休業”との看板をかけておくのも忘れない。
「ほら、これなんかすごいよ。動きもすごくバリエーションあって、二点責めとかも出来るしさ」
「オイイイイイイイイイ!!!そんなん、いきなり持ち出されたら、一気にドン引きされるわ。晴太君、それは・・・まあ、あとからおいおいと」
「そう・・・じゃあ、新兄はどんなのが欲しいの?」
「うん、もしかしたら、いざっていうとき、勃ちませんでしたって話、よく聞くからさ。もしかしたら、僕もそうなっちゃうんじゃないかって」
「なるほど、そういうのか。じゃあ、こんなんがいいかな」
晴太はまたも商品の中から、ゴソゴソと取り出してきた。
「これって、強壮薬かなんか?」
「滋養強壮薬、“漢になるZEYO!!!”。これは凄いんだよ、精神的に勃たなくても、お構いなしなんだ。この店でも、すごく売れてて、なかなか入ってこないんだ。お客さんは“負けられない戦いがそこにはある”ってブツブツ言いながら買っていくんだよ」
「へえ、それなら期待できそうだね。あ、あと、さあ、ほら・・・ゴムとかも、あったら嬉しいかなあって」
「ああ、あるよ。新兄、ゴムなら厚いほうがいい?それとも薄いほうがいい?」