書庫(蜃気楼)

□熱海よりも熱く、君を愛でたい(中編)
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旅館に着いたあと、二人はしばらく窓から見える風景を眺めていた。


「いい景色だよ、パンデモニウムさん。ほら、ここからなら海も見えるよ」


パンデモニウムは新八の傍に来て、窓からの景色を眺める。


「うん!すごくキレイ。天気もいいから、海がキラキラ輝いて」

「僕には海よりも、パンデモニウムさんがキラキラして眩しいよ」

「え、私が?何か塗ってたかなあ?眩しかったならゴメンね」

(しまったあ、パンデモニウムさんの天然を考慮に入れてなかったぁ。僕のスパコンずれまくってるよ。やっぱスパコンは、二番よりも一番がいいぃぃぃ!!!)


「新さん、外に行こう。歩いてみたいところがあるの。ね、一緒に行こう?」

「うん、わかった」


二人は旅館を出て、周辺を見てまわることにした。その姿をコッソリ見ている一団がいた。


「ええ、目標は旅館を出ていった。そちらはどうだ?リングディンドン」

「うむ、二人は仲睦まじく接している。男は手を握りそうで握らずにモジモジしておる。リングディンドン」

「はいはい、今は温泉街で色々と見てるみたい。男はこけしを凝視しています。何か妄想入ってるようで、女は何気なくしているようだよ。彼女がかわいいと思いました。リングディンドン」

「主観入れてんな。ホシは温泉街を抜ける模様。その先には、いかがわしいストリップ劇場があるようで、ムッツリなアイツなら行きかねないと思いました。リングディンドン」

「何でシメが作文?引き続き偵察を続行する。いいな」

「「「「リングディンドン!」」」」


新八はてを繋ごうとして、何度もパンデモニウムの手に触れた。電車に乗る際には繋げたのに、またも弱気の虫が前に出てきたようで、手を繋ぐには至らなかった。


「どうしたの?」

「え、いやあ、人でいっぱいだね」

「週末だからじゃない?色々な人が来てるんだね」

「これだと離れてしまいそうだね」


パンデモニウムは、新八の手をギュッと握った。


「でも、これだと離れそう」


そう言うと、パンデモニウムは繋いでいた手を、指と指を絡ませるように繋ぎ方を変えた。


「これなら離れないよね。うん、これなら大丈夫」


パンデモニウムはニッコリと新八に笑顔を向けた。その可愛らしさに、新八はえもいわれぬ衝撃を受けた。それは稲妻のようでもあった。


(ぐっはあああぁぁぁ!!!何、その笑顔。反則だよ、もはや憤死ものだよ、その可愛さ。パンデモニウムさんかわいいよパンデモニウムさん)

「どうしたの?新さん」

「いや、大丈夫だよ。何でもないから」


絡めた指を握ると、パンデモニウムも握り返してくる。その感触に言い知れぬ喜びを感じながら、新八は幸せってこういう事を言うんだなと実感した。
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