書庫(蜃気楼)
□鏡台に映った君が妖しく艶やかだったんで
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そして、時間と仕事に追われて夜も更けていき、店内も客の姿が無くなった頃、ガラガラと店の戸を開ける音がした。ヒゲをたくわえた配管工の姿をした見るからに怪しい2人組。桂小太郎とペットのエリザベスだった。
「あんた、誰?」
「あんたじゃない、ただのしがない配管工だ。幾松殿、ラーメン2つだ」
『おっす』
「あいよ。カウンター席で待ってて」
幾松が調理にとりかかって、桂に話しかける。
「あんたらのこと、テレビで見たよ。何だって、あんな所にいたわけ?」
「世の中の動向を知るためだ。あと、“ついんふぁみこん”が欲しくて、つい」
『それは古いんだっての』
「攘夷志士だよね、あんたって。子供か、ゲーム好きな子供か?」
幾松が桂たちの前にラーメンを差し出す。幾松はカウンター越しで話を聞くことにした。
「ついんふぁみこんを得るためにゲーム対決をしたのだが」
『そうじゃないだろ』
「そうしたら、急に幾松殿のことが思い出されてなあ」
「ちょっと待ちな。脈絡ないんだけど。ゲームやって、何であたしの事を思い出すわけ?」
「“ぎゃるげー”なるものをしていたら、その中の登場人物が幾松殿に似ていたのでな。てなわけで、幾松殿の元へ」
「はあ、そうですか・・・。で、どうすんの?これから」
エリザベスは一足先にラーメンを平らげて席を立った。
「どうしたエリザベス?」
『用事があるのでお先』
「そうか。ならば仕方ない。追手がいるので、しばらくは変装を解くなよ。気をつけてな」
『がってん承知』
戸をガラガラと開けて出て行くエリザベス。エリザベスは出ていく間際、幾松に向けて看板を出した。
『よろしく頼む うまくやんな!』
少しばかりキョトンとしてしまった幾松だが、すぐにエリザベスの真意を察して微笑んだ。
(あいよ)
「どうしたのだエリザベスは?一緒にいたときには用事なんて一言も」
「いいペットじゃないか、エリーは。なかなかいないよ、ああいうペットは」
「それはそうだ。ペットというよりも、相棒といってもいいくらいだ」
「で、今夜はどうすんの?」
「あ、ああ。そうだな、泊まらせては、もらえないだろうか?幾松殿がよければ」
「あたしの答えなんて分かってるくせに。いいよ、泊まっていきな」
「かたじけない」
「客もあんたが最後みたいだし、今日はもう店じまいさ」
幾松が店の暖簾をしまい、片付けに入る。
「すまぬな、幾松殿」
「すまないなんて言わないでよ。何度だって泊まってるわけだしさ。先に風呂にでも入る?後片付けとかあるからさ」
「分かった。そうさせてもらう」