書庫(長編) 第二巻
□其ノ弐参
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月詠は銀時の首筋に刃を当てる。あとは刀に力を込めて首をかき切れば、事は終わる。噴水のように出血する銀時の血を浴びながら、月詠もその刀で首をかき切る。
月詠はこれから行う事の青写真を映し出した。まもなく、それは現実になる。先ほど思い描いたとおり、実行しようと思ったそのとき。
月詠の脳内にあるものが浮かんだ。
「銀さん!」
「銀ちゃあん!」
月詠の脳裏に浮かんだのは、志村新八と神楽であった。必死に銀時の名を呼ぶ姿は、彼を本当に必要としていることが伝わってくる。そして、数多くの人々が銀時の名を呼ぶ。その中には、晴太と日輪の姿もあった。
「晴太、日輪、ぬしらは、どうして?」
月詠の問いに答えるでもなく、現れた人々が銀時の名を呼んでいる。異口同音に回復を願う声が。
「わっ、わっちは、どうすれば」
月詠の手から、刀が力なく離れた。自分だけのために、そんな存在なら銀時の命を奪っていただろう。しかし、それはできなかった。
月詠は知っている。この男を慕って止まない人々がたくさんいることを。この男に救われた人々がたくさんいることを。
「・・・わっちは、大バカ者じゃ。ここで銀時と共に死んでは、新八や神楽、他の皆が会えないではないか。それに、わっちも」
銀時に出会っていなかった。銀時がいたからこそ、晴太は日輪に会えた。自分自身もかけがえのない弟が出来た。
「それに、わっちの事も幾度となく救ってくんなんした。面と向かっては言えぬが、ぬしの姿をわっちは知らず知らずに追っておりんした」
幾度も救ってくれた銀時を、自分は手にかけようとした。さっきまでの自分を月詠は恥じた。
「銀時はわっちを幾度となく救ってくれた。ならば、今はわっちが救わねばならぬ。死ぬことなどいつでもできる。人はいずれ死ぬのじゃから」
月詠の表情は晴れやかだった。
「ありがとうな、みんな。みんながおらねば、わっちは悔やんでも悔やみきれぬ事をしでかすところでありんした」
やがて月詠はまどろみはじめた。ほっとした所で疲れがどっと来たのであろう。銀時のベッドに寄り添うように眠りについた。