書庫(長編) 第二巻

□其ノ伍
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滝嶺綾人は菊池槍をグイッと勢いよく引っ張った。その勢いに引かれ、相手は綾人の前に引き寄せられる。待っていたのは、綾人の膝であった。


「ぐうっ、うう!!!」

「はは、抜けないなら引っ張り込めばいい。何しろ、動けないのだからな」


綾人は空いていた右手で、相手の顔面を激しく殴打した。しばらくの間、その場面は続いた。


「確かに俺は動けねえよ。けどなあ、今の状態はな、俺にとってもタコ殴りタイムでしょうが!コノヤロー!!!」


相手も負けじと綾人の顔面を殴りつけた。重いその一撃は、綾人を一瞬怯ませた。二人は相互に殴りあった。これを嫌ったのか、綾人は相手の腹部を蹴り飛ばし、距離をとった。その衝撃で菊池槍に刺さった球も、相手から離れていった。


「はは、見事な胸だな。びっくりした。お前、名前は?」

「名乗る必要なんてあんのかよ?」

「それはそうだな」


坂田銀時は、なかなかの強敵であると認識した。最初の突きの速さ、暗闇でわかりはしなかったが、まったく見えないほどであった。困ったもんだと、銀時は自嘲の笑みを浮かべる。

そんなとき、銀時が詰めていた球が飛んできた。銀時はこれを受け止めた。その直後、足に痛みが走った。綾人は銀時の右ももに菊池槍を刺していた。


「はは、足元用心ってな」

「てめえ、ふざけ」

「死んで」


綾人は菊池槍の柄を銀時の側頭部に打ちつけた。銀時は抗う暇もなく、地面に倒れた。


「見られたし、ここは殺しとかないといけないからさ。死んでもらうよ」

「へっ、そんなお望み展開、ってぐうっ!」

「悪い、足は攻めさせてもらうから」


綾人は銀時の足をぐりぐりと踏みつけた。痛みに銀時は苦悶の声を上げる。


「じゃあ、さよなら。まあ、変態として死後は笑いものになるんだけど」


綾人は槍先を銀時の心臓目掛けて突いた。そのとき、銀時は綾人の左足を掴み、これを一気に引いた。綾人はバランスを崩して倒れた。

銀時はヨロヨロと立ち上がった。綾人はしばらく空を見上げていた。


「お前、名前は?」

「名乗る必要がねえ」

「そうか、じゃあ変態×(エックス)としとこうか?今回は見逃す。さっさと行け、久々に骨のある奴に出会ったから」

「いいのかよ?助けてしまって」

「ああ、今は暗くて何も見えなかった。見逃したとて、いいとは思うが」

「後悔するぜ」

「そんなこと言う前に退けば?じゃねえと、気が変わってしまうかもよ」


銀時は踵を返して、その場を立ち去った。綾人は素早く身を翻して、懐から銃を銀時の方向に向けた。しかし、そこに銀時の姿はなかった。綾人はニヤリと口元を上げた。


「やるなあ、なかなかの男だな。はは、邪魔になるなあ」


綾人は苦笑いした。楽しみなようで、うざったいようで、どっちともつかない気持ちを抱きながら。
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