書庫(長編) 第二巻

□其ノ伍
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翌日以降、“百華”に対する殺害事件は影を潜めた。

月詠は久しぶりに安らいだ日々を過ごしていた。『ひのや』でくつろいでいた月詠は、ひのやにやってくる銀時の姿を見かけた。

月詠はやってきた銀時を出迎えた。


「よお、元気にしてたか」

二人は月詠の部屋へと上がっていく。月詠は歩きづらそうに階段を上がる銀時に言った。


「ぬし、どうしたんじゃ?足を引きずっておるようじゃが」

「まあ、ちょっとな」


月詠の部屋へ着き、銀時はゆっくりと座った。月詠も銀時と向かい合うように座った。


「で、今はどうなんだよ?」

「どうしたかは知らぬが、今は平穏になっておりんす。じゃが、何か嫌な予感がするのじゃが」


銀時は月詠の話を聞きながら、綾人に刺された右足をさすっていた。


「そうか。まあ、このままであれば、何の問題もねえんだがな」

「じゃが、今までの事を考えると、また何やら仕掛けてくる。わっちはそう思う」

「そう思うのは当然だろうな。俺もそう思ってる。言っておくが、お前らを狙ってるヤツ、相当に強いからよ」

「銀時、ぬしはそいつと?」

「不覚ながら、右足はその時にやられたもんだ。油断はしてねえつもりだったけどな」

「ぬしがそう言うのなら、手強い相手なのじゃな。済まぬな、いらぬ事で銀時に怪我までさせて」

「変な心配すんなよ。怪我を負ったことで、俺も関わる理由ができた。銀さん、やられっぱなしじゃ終わらないからね」

「銀時、ぬし」

「俺にも関わりができちまった。だから、遠慮なく頼ってくれよな」


銀時は月詠に笑いながら話した。月詠は仕方ないなという面持ちで、これに応えた。


「とはいえ、被害に合っておるはわっちらじゃ。ぬしはあまり無理をするな。また、ぬしが傷ついたとなれば、神楽や新八、それに皆が悲しむ」

「お前は?」

「わっち?」

「お前はどうなんだよ?今、俺はそれが聞きたい」


銀時に問われ、月詠はキュッと彼の着流しの袖を引っ張った。


「決まっておりんす。痛いほどに悲しい。ぬしなら心配ないと思いつつも、やはり心配する。銀時の傷つく姿は・・・見たくない」


月詠は俯きながら言った。銀時は月詠が引っ張っている着流しの袖を引っ張る。月詠は引き寄せられるように、銀時の胸に収まった。久しぶりに味わう銀時の感触や匂い、それが心地よくて月詠はゆっくりと瞳を閉じた。

しばらくすると、月詠は規則正しい寝息を立てていた。


「寝てねえのかな?まあ、いいか。ゆっくりと寝てくれな」


銀時は月詠を包み込むように抱いた。抱いた感触から、銀時は月詠が痩せたことを知った。月詠が抱えている苦しみや悩み、それらに思いを馳せる銀時であった。
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