書庫(長編) 第二巻

□其ノ弐肆
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坂田銀時の容態は回復していった。看病の役目である月詠も、これほど喜ばしいことはなかった。


「やあ、何とかなるもんだな」

「油断はせぬがよい。しっかり直さねばならぬ。焦るでなし」

「大丈夫だって。体調も戻ってきたし、部隊を何とか立て直していかねえと」

「それもこれも、ぬしが万全にならねば始まらぬ。元に戻るまでは大変じゃ。最低でも、わっちを打ち負かすくらいにならねば困る。何せ、ぬしはわっちの百倍強いんじゃからな」

「へ?百倍?」

「こっちの話でありんす。明日からは体を動かしていくゆえ、よく休んでおきなんし」


月詠は部屋を後にする。少し安堵した。これからが大変だとは十分に理解している。頑張っていかねばと気を引き締める月詠であった。

しばらく歩いていると、鳥尾小耶太に出くわした。神妙な面持ちの小耶太は、月詠の姿を認めると、彼女を呼び止めた。


「予想よりもひどい惨状じゃ。大惨敗もいいとこじゃ」

「そんなにか?そんなに酷い状況でありんすか?」

「頬鳥居のおっさんはじめ、各隊の隊長や幹部らもほとんどが戦死。兵士もたくさん死んだ。部隊としての体を成しているのは、うちくらいじゃ。その他の部隊は再編成をせにゃならん。後から見せるが、絶望したくなる知らせじゃ。逃げ出したくなる」

「小耶太、ぬし」

「うちらは攻勢に転じる兵力を失った。攘夷を達するための戦いはもう出来ん。攘夷の命脈を保つための戦いしか出来んという事じゃ。攘夷が出来んのなら、何のために戦っておるのやら、わからなくなるの」


そう言って、小耶太は笑った。


「こちらへの風当たりは強くなるわな。為朝雄は攻め寄せてくるじゃろうし」


小耶太は深い溜め息をついた。月詠は小耶太が苦悩しているのを感じた。元来が明るい性格だけに、余計に強く感じられた。


「小耶太、わっちにも相談してくんなんし。ぬし一人が抱えることではない。わっちにも考えさせてもらいたい」

「ありがとな。ヤバくなったら、言わせてもらうから」


小耶太は踵を返して立ち去った。敗戦がこれほどまでに厳しさを強いるものなのかと、月詠は寒々した気持ちになる。これから攻めてくるであろう、敵の脅威に耐えられるか。月詠もまた、小耶太と同じく深い溜め息を漏らした。


「負け戦、か。あの小耶太ですら、あのようになっておる。早く銀時には完復してもらわねば」
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