書庫(長編) 第二巻
□其ノ弐肆
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天人側の本営では、幹部たちがいきり立っていた。
「一気に奴らを殲滅する。今なら十分にそれが可能だ!」
「それをやれば、奴らは必死に抵抗する。強引な責めは、甚大な被害を生んでしまうぞ」
「被害が出るのは当然!それを恐れて、臆病風に吹かれたと言われることこそ、最も恐れることだろ」
騒々しく議論が白熱している様を、上座にいる為朝雄は冷ややかに聞いていた。為朝雄配下の四天王は、我関せずの態度をとっている。いつまでも終わらぬかのような議論に飽きたのか、為朝雄は口を開いた。
「わしらの戦いは、勝ち負けの話ではない。もはや大勢は決している。いかにして、より良い勝利を得るかであろう。まあ、わしの興味は別ではあるがな」
「為朝雄様、それはどういう」
「“燕雀いずくんぞ鴻鵠の志を知らんや”、高みを目指す者の志、お前らが測り知ることができようか。まあいい、そろそろ小突いてみるか。補給品はどうだ?」
「はっ、幕府側から全面的に力を貸したいと。補給の方はぬかりなく」
「目を覚まさせたからな。後方は問題ない。明日辺り、どれほどのものか見てみるとするか。麻鳥衣怒、廉敦」
「はっ」
「はい」
「お前らは、本隊側を攻めろ。奴らの士気を確かめろ」
「はっ」
「はい」
「楼逵、錐ン痔」
「「はっ」」
「お前らは天紋嶺を攻めよ。まあ、白夜叉は出てこまいが、楽しめるはずだ」
「「はっ」」
為朝雄は矢継ぎ早に指示を出す。先ほどまでの、いつ終わるかしれない議論が急速に動いた。
幹部たちは承服したわけではない。しかし反論を述べようにも、為朝雄の功績や武勇に比肩する者など、この場には存在していなかった。
為朝雄は席を立ち、その場を後にする。四天王が後に続く。
「為朝雄様」
「何だ?」
「よろしいのですか?少々、独善が過ぎるのではないかと」
「あのままでは、議論はいつになっても決まらぬ。ならば、さっさと決めた方がいい。戦場を前にして、意見がまとまらぬのは、兵士の士気を下げる」
「まあ、あたしはどうでもいいんだけどね。楽しければ」
「早く明日にならんかなあ。戦いたいでせう」
「廉敦、お前は幸せそうでいいな。俺は天紋嶺だからな、あの姉ちゃんとまた戦えるわけか」
「よき強敵に会えるは喜ばしいことよ。この危機的状況に、新たな強敵が出てくるかもしれんしな。もしかすれば、命を落とすかもしれぬほどの」
為朝雄は口元を上げて、喜びを表す。戦場において、命を失うかもしれぬほどの緊張感。それが為朝雄にとって、生きていることを実感する証であった。