書庫(長編) 第二巻
□其ノ弐肆
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月詠は再び銀時の部屋にいた。銀時は寝息を立てて、眠っている。
「よく眠っておりんす。ふふ、こうしておれば、多少の可愛げも出てくるんじゃが」
穏やかに寝入っている銀時を見て、月詠は気持ちが和んでいるのを感じた。この部屋を出れば、厳しい現実が待っている。この部屋の中だけが、それを和らげてくれる。
「ぬしには早く完治してほしい。じゃが、治ってほしくないと思ってしまう」
銀時の髪を撫でながら、月詠の心は揺れていた。心地よい触り心地が、心を落ち着かせる。
「弱気になったな。情けない。体調は上向いておる。あとは体を動かさねば。体が鈍っておるじゃろうし、腕も元に戻さねば」
「う、う〜ん!」
銀時はゴロンと寝返りを打ち、月詠に背中を向けて眠り続けた。問題ないと思い、月詠は眠りについた。
翌日、月詠は起床した銀時に言った。
「今日から、体を動かしてもらう。段階を踏んで、と言いたいところじゃが、そんな暇はない。実戦形式で行う。そして、それは夜から行うゆえ」
「何で夜なんだよ?」
「人目に見られるのを避けるためじゃ。経過の時点で、隊士らが見れば士気に関わるからな」
「ああ、なるほどな」
「ぬしが皆に顔を見せるは、体が元に戻ったときでありんす。とにかく、時間はそんなにありんせん。厳しいが覚悟せよ」
「生半可なことじゃあ、治りもしねえしな。ああ、とにかく治さねばいけねえし」
「場所は、すすきがたくさん生えていたとこじゃ。人がおらぬのを見計らって始める」
そして、その夜。動ける格好に着替え、銀時は月詠と共に部屋を出た。しばらく歩いた後、指定の場所に着いた。
「じゃあ、頼むわ」
「では、参る!」
月詠は銀時の前から姿を消した。銀時が気付くと、懐深く入り込まれていた。銀時は身を護るのに必死だった。
「遅い!」
「づっ!ぐああっ」
月詠に一撃を加えられ、銀時は反撃するが、既に月詠の姿はなかった。逃げる月詠を追いかけていくものの、呼吸がすぐに乱れる。
「くそっ、何ですぐに息切れして、追い付けね」
銀時の動きが止まったあと、月詠は反転して攻勢に出た。突き、蹴りを何発も見舞われ、銀時は抵抗もできずに倒れた。
「立て、銀時。打撃や木の小太刀だからよいが、実際には死んでおりんす。ぬしが思うておる以上に、体はそうとうに鈍っておる。さて、戻るかの」
「戻してやるさ。ここでグダグダしてる暇なんかねえからな」
強がってはみたものの、銀時は完全復帰が遠く険しいことを思い知らされたのだった。
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