書庫(長編) 第二巻

□其ノ弐伍
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「うあああっっっ!!!」

「はああっ!」


坂田銀時と月詠が激しくつばぜり合いを続けている。しかし、左腕が使えない銀時は月詠に押されていく。これを嫌った銀時は距離を取る。月詠はそれを黙って見送った。


「てめ、お情けかよ」

「甘い」


月詠はすぐに銀時との間合いを詰め、みぞおちに強烈な一撃を加えた。


「ぐっ、うううっ」

「仕舞いじゃ」


月詠は腹を押さえる銀時の頭部に、小太刀を思い切り打ち下ろした。

銀時は地面に突っ伏したまま動かない。動けないというのが正しいかもしれない。


「予想以上じゃな。これでは、皆の足を引っ張るだけじゃ。ぬし、体力どころか、戦場勘すら衰えておりんす」

「・・・」


戦場勘は教えるものではない。戦場での経験、場数がものを言う。月詠は体力が戻ってくれば、戦場勘も戻ってくることを願った。しかし、難しい道のりである。


「銀時?」


銀時はピクリとも動かない。まるで屍のようだった。月詠が確認すると、どうやら気を失っているようだった。

月詠は安堵の表情を見せた。肩を組む形で、月詠は銀時を運んでいく。そういえばと、ふと月詠は思い出す。

酔った銀時を運んでいたときのことである。


「おぅえぇぇ」

「・・・何をしとるんじゃ、ぬしは?」

「しこたま呑まされてよ、もう銀さん、らめでふぅよぉ」

「しようのない。ほれ、行くぞ。そんなでは、『万事屋』まで行き着かぬ。今日は『ひのや』に泊まるがよい」


酔いつぶれた銀時と肩を組んで、月詠はひのやへと連れ帰った。


「悪いな、ご足労かけちまって」

「思ってないだろ、露ほどにも思っておらんじゃろ。まったく、いい大人が酔いつぶれるまで」

「まあまあまあ、こうして肩を組んで歩くのも乙なんじゃね?」

「酔っぱらいの、ろれつが回らぬ男と肩を組んだとて、何とも思わぬ。むしろ不愉快じゃ」

「はら、そですか。うえっへっへっ」

「やめよ、何じゃその笑いは」

「・・・」

「寝て、しまいんした。まったく、ぬしと言う男は」


月詠は呆れながらも、寝息を立てる銀時に怒りを感じながらも、その表情は柔らかだった。


「何じゃろうな。どこにわっちは惚れたのじゃろう?わからぬなあ」


月詠が横を見れば、気を失っている銀時の顔があった。ほんの少しばかり、思い出にひたってしまっていた。苦しくてもどかしい銀時の気持ちは痛いほどわかる。そして、その様を見続ける自分も辛い。

肩にかかる重さ以上に、かかる責任の重さを月詠は感じていた。
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