書庫(長編) 第二巻
□其ノ弐伍
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天人側は攘夷派諸隊に向かい、攻撃を開始した。先頭に立つは、麻鳥衣怒と廉敦であった。
まずは鉄砲で相手の出方を確かめる。一斉射を加えた後、喚声を上げながら攻め立てる。攘夷派からは何の反応も返っては来なかった。
「手応えがないわねぇ、イキがいいの殺し尽くしちゃったかしら?」
「だったら、さっさと攻めてしまいませう。踏み潰して、どんどんと攻めていきませう」
「まあ、そうね。面白味がないなら、さっさと終わらせた方がいいか。よし、行きますか」
天人側と攘夷派諸隊の陣との距離が狭まる。
「撃て!」
その後、何人もの天人が倒れていく。引き付けた上での射撃である。それに大軍が密集しての射撃で、逃げ場もなく天人たちはバタバタと倒れていった。
やがて柵の門が開き、兵士らが一斉に撃って出た。先頭きって進んでいるのは、鬼兵隊隊長・高杉晋助である。彼の意気に呼応するかのように、後へ続く兵士らの意気も高かった。
「天人なんぞ恐れるな!斬って斬って斬りまくれ」
予想以上の反撃を食らい、天人側の先頭部隊は浮き足立つ。
「なかなかじゃない。沈んでるかと思ったけど」
「やってしまいませう」
先頭部隊の足が止まり、天人側がもたついていたその時、爆音と共に天人たちが天高く吹き飛んでいく。
「な、ななな、何でせう。麻鳥衣怒、吹っ飛んでしまうよ、どうしませう」
「落ち着きなさい。まずは静かに後方へ退いて」
交戦中である先頭部隊を除き、天人側は一旦後退した。これをじっと待ち構えている一団があった。
「その判断はよし。だが、それは連撃の好機。よし、行くぞ!」
天人側の左側面から、攻めかかるのは凌爽隊だった。隊長の桂小太郎は敵に出会えば、右へ左へと敵陣深く斬り進む。
さらに右側面からも攻めかかる部隊があった。
「行っちゃれ、前の戦いの仕返ししちゃれ」
それは坂本辰馬率いる快援隊であった。両側から攻められて、天人側は浮き足立った。
「あ〜あ、情けないわね。脆いというか」
「そうではない。我らが強いからだ」
素早い剣撃に、麻鳥衣怒はそれを受け止めるしかなかった。
「ほう、奇をてらった攻撃であったのに」
「生意気っ!」
「ははは、怒りに任せては勝てるものも勝てぬ」
麻鳥衣怒は手にした円圏を振り回すが、桂は気にすることなく避けていく。麻鳥衣怒は円圏を桂に向かって投げた。
「その図体では、何もかもが俺には丸分かりだ」
「さあて、どうかしら?そう、あんたの思惑通りにはならないと思うけど」
「何?」
桂はしばらくして、背中への激痛を覚えた。麻鳥衣怒が放った円圏が旋回し、桂の背中を切り裂いたのだった。
「戦いは後ろに注意しなくちゃね。鉄則じゃない?それくらいは」
「なるほど、情けない姿を見せたわけか。だが!」
桂は立ち上がり、麻鳥衣怒を睨み付けて言った。
「俺を止めたければ、そんなものでは止まらん!一撃で殺すつもりでこい」
怪我をものともせず、さらに闘志を燃やすその姿に麻鳥衣怒の中にある感情が生まれていた。
「面白いわね、あんた。気に入ったわ。まだ、お相手してくださる?」
「ふんっ、俺は何かと忙しい。手短に済ませたいんだがな」
「つれないわね。あんたの事もっと知りたいから・・・」
麻鳥衣怒は手にした円圏を振り回す。明らかに先ほどとは速さが違う。
「もっとやり合いましょ?」
「ごめんこうむる」