書庫(長編) 第二巻

□其ノ漆
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そして深夜、見回りをしている百華の者たちの目の前に一人の男が立っていた。滝嶺綾人がやってきたのだった。百華の者たちは素早く身構える。


「ほっほう、四人かい。ご苦労なことで、頭が下がる思いがする」

「何者だ!」

「何者であろうと、お前らには関係のないこと。さあて」


ゆっくりと綾人は近寄ってくる。身構える百華の者たち。綾人は手にした菊池槍で、百華の者たちの顔布を切り裂いた。


「な、ああっ」

「ふ〜む、ふむふむ」


綾人はじ〜っと、百華の者たちの顔を見回している。何を仕掛けてくるかと百華の者たちは気が気でない。


「決めた、お前!」

「何をバカなことを」

「決まった時点で、お前らに選択の余地はないさ。除外の方々、少し眠ってもらいましょう」


綾人はニヤリと笑ったあと、百華の者たちに向かって駆け出した。百華の者たちとて、幾度かの戦いを経験している。気後れすることはなかった。


「はは、遅いな」

「なっ!!!いない」


百華の者たちは綾人を見失った。綾人は見失って狼狽している百華の者たちをあざ笑うかのように、彼女らの下に潜り込んでいた。そして、急浮上して百華の者らのアゴを的確に打ち据えた。

これにより、脳を揺らされた百華の者たちは動くことがままならなくなった。力なく倒れ、動きたくとも動けない状態となってしまったのだった。暗がりの中、長柄の武器で的確にアゴを狙って打ち据える。まさに神業といってもよいほどの武術の冴えであった。


「さて、行くとしようか」


綾人は残った百華の者の首筋に手刀を打ち込み、気絶させた。それをひょいっと肩に担ぎ、綾人は去っていく。

去らせてはならぬと、百華の者たちは綾人に向かって叫んだ。

「ま、待て」

「用はないぞ、お前さんがたには。しばらくそこで這いつくばっていたらいい」

「どうするつもりだ?そいつを連れていって」

「殺しはしない。それ以上のことを、こいつには味わってもらう。お前ら、大変だなあ。お頭の不始末のせいで、配下のお前らにとばっちりがいくんだから。はは、ずいぶんと喋ってしまったな。じゃあ、折があったら、また会おうか」


百華の者たちを振り返ることなく、綾人は歩いていった。


「夜は更けていき、人々は一様に寝入る頃。はあ、しかし、こいつは・・・違った夜を迎えるわけか」


しばらくして、別場所に見回りへ行っていた百華の者たちが、倒れていた者らを見つけた。


「おい、おい、大丈夫か」

「また、また一人連れ去られた」

「四人いても、ダメなのか?」

「強すぎる。手加減されても、この体たらくだった。多少、人を増やしたところで、どうにもならない」

「立てるか?戻って、頭に報告しないと。で、男はどこに行った?」

「あっちへ」


百華の者の一人が、指で綾人の行った方向を指し示した。


「まだ間に合うかも」

「ダメだ!間に合ったとしても、私らではどうしようもない。被害が増えるだけだ」

「連れ去られた者はどうする!むざむざ、見殺しにでもしろと?」

「・・・悔しい、悔しいけど、私たちじゃ、どうすることも」


歯噛みして、百華の者らは悔しがった。しかし、どうしようもなかった。自分らがあまりにも無力だったから。そう思うと、余計に悔しさが増してきた。
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