書庫(長編) 第二巻
□其ノ弐陸
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「おうら、オタオタしとる暇はないっちゃ。もっとも、お前らなんぞに遅れはとらんがな」
小耶太の動きは敵中に飛び込んでも、速さが変わることはなかった。天人たちは小耶太を捉えきれず、翻弄されるばかりであった。
「おいおい、そんなんでええんか?もっと当たり強くしてみいや。全然物足りんじゃないか。もっとマシなモンはおらんかえ」
「おるぞ」
「な、ぐううぅぅ!!!」
上から小耶太を圧し切らんばかりの重圧が、襲いかかる。小耶太は刀を両手で支えて、これに耐える。しかし、お構いなしとばかりに重圧が徐々に小耶太に迫ってくる。
「ふ、ぐうう、りゃあああああ!!!」
小耶太は全身の力を使って、これを払いのける。
「誰じゃあ、お前さんは?」
「楼逵、為朝雄が四天王の一人」
「四天王?ほお、道理でなかなかの重圧じゃあ。けんどな」
小耶太は楼逵に飛びかかるように向かっていった。矢継ぎばやに打ちかかる。そのいずれもが的確に急所を狙っていた。
楼逵は小耶太の太刀筋の鋭さに舌を巻いていたが、どこか余裕めいたものがあった。受け流す姿勢にも、それは表れていた。
小耶太は少し間を取った。
「気に食わんのう、その余裕ぶっこいた姿勢が」
「なかなかの手練、そうはお目にかかれぬな。だが、今のところはそこまでだな。まったくもって、命の危険を感じぬ」
「どういうことじゃ?」
「そのままだ。こちらの命に届くほどの腕はない。そう言っておる」
「こんなあ、言ってくれんじゃない」
小耶太は刀を握りなおし、大きく息を吸う。楼逵の言葉に少しの苛立ちは感じたが、怒りに任せても敵を倒すことは難しい。小耶太は間合いを詰めて、機会を窺う。