書庫(長編) 第二巻

□其ノ捌
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滝嶺綾人による“百華”への攻撃は続いた。夜の見回り中に現れては、一人をさらって翌朝に帰す。

どんなに用心していても、どんなに人数を増やしても、綾人はそれを超える強さを持っていた。

被害は続いた。さすがの百華の面々も、恐怖を抱かずにはいられない。中には夜の見回りを嫌がる者、恐怖と緊張に耐えられずに心身喪失状態になる者もいた。


「お頭、どうします?明らかに夜の見回りを嫌う者たちが出てきました」

「犯人の尻尾はつかまえたか?」

「些細な情報も掴むようにはしていますが、玉石混交です。もしかしたら、敵側から流しているというものもあるのではないかと。あと、吉原の店側からも苦情が相次いでいます。このままの体たらくなら、地上の警察に来てもらうことも考えると」

「・・・そうか、わかった。ぬしはもう帰ってよい」


一人になった月詠は、椅子の背もたれに体を預ける。事態は最悪の方向へ進んでいる。それに対して、何ら手が打てていない現実。それが月詠の心をかき乱す。


「どうすればいい。何もわからぬ。じゃが、何とかせねば。でなくば、また夜が来る。ヤツが、来る」


夜、吉原にとっては客が来る好ましい時間。しかし、今の百華にとっては、夜は悪魔が来るおぞましい時間となっていた。

数日後の夜、また百華の者がさらわれた。その知らせを受け、月詠は呆然となった。完全に後手に回っている。思考が明敏さを失い、それに比例して、的を得ない指示を出してしまう。

百華への信頼は地に堕ちた。どうしようもない敗北感が月詠を襲う。


「探しに行かねば、わっちも行く」

「頭、何を言ってるんですか!姿が見えない敵に、頭を行かせられません」


月詠はそう言われ、引き下がった。普段であれば、そう言われても強行して行くはずが、今回はすんなりと引き下がった。


「よい手が浮かばぬ。重い、何じゃろう、体が重くて、辛い」


眠れぬ夜が幾度かあった。月詠は心身ともにギリギリの状態であり、いつ心労で倒れてもおかしくはなかった。

夜が明け、陽射しが吉原を照らし始める頃、さらわれた百華の者が見つかった。例によって、外に置かれたところを見つけたのだった。衣服は乱れ、髪も無造作にざんばら髪であった。

助けた百華の者は、胸の中に何か入っていることに気付く。取り出してみると、一通の手紙であった。手紙には“百華の頭へ必ず渡せ”としたためてあった。
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