書庫(長編) 第二巻

□其ノ捌
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運ばれた百華の者は、番所にて休ませた。そして、手紙は月詠のもとへ届けられた。

月詠は一瞬、手紙を読むことをためらった。しかし、手がかりを得るためと手紙を開いた。


『甲斐もなく、ただ右往左往するばかりの愚かなる頭領殿。貴女の尻拭いで、ひどい目にあう女共はいかな気持ちであろうか。さて、我が事を知るに至らぬ、貴女へこちらから朗報を送る。28日の22時、珍宝楼にて会いたし。必ず一人にて来られたし、部下を伏せても無駄である。わかりしだい、さらなる惨禍をご馳走させていただく。それでは、28日にお会いしよう』


手紙を読み終わり、月詠は様々な想定を考える。配下を連れてきた場合、おそらくは手紙のようになるだろう。相手の手練手管の巧妙さを考えれば、配下を伏せていたとしても勘づかれる。逆であった場合、逃げることに限定すれば何とかなる。配下がいれば、それを考慮しなければならない。相手の手の内にあるのは癪ではあるが、ここは言うとおりにしたほうがいい。月詠は判断した。


「珍宝楼か、あそこは店をたたんでから、使われていない空き家同然の店。何があるかはわからぬが、用心せねばな。相手はそうとうな使い手であるからの」


月詠はまだ見ぬ犯人に思いを馳せた。残酷きわまりない手段で、百華を追い詰めていく犯人。腑に落ちない点が多すぎるが、28日には多少判明する。月詠はそう考えていた。

そして、28日の夜。月詠は夜の見回りを買って出た。夜の見回りに恐怖心が出ていることもあってか、反対の声は上がらなかった。月詠は悠然と、夜の街を見回る。そして、目的地の珍宝楼へとやってきた。

灯りがなく、中は真っ暗だった。しかし、目が慣れていくと、辺りの様子も判別できるようになってくる。

珍宝楼は吉原の遊郭でも、大型の部類に入る。各種部屋があるほか、多人数をもてなす巨大な大広間もあった。

月詠は慎重に辺りを眺める。店の内部を把握し、逃げ道の確認をするためであった。相手が来ているかを確認するため、月詠は声を大にして言った。


「百華の頭領、月詠でありんす。約束どおり一人で来た。どこにおりんすか!?」


階段に何やら、紙が貼り付けてあった。そこには“大広間まで来られたし”と書いてあった。

月詠はそれに従い、上へと上がっていく。もちろん、周囲への警戒も怠らない。一段一段と上に上がるたび、月詠は不安が徐々に増大していくのを感じた。事態は解決へ向かうのか、それとも混沌としてしまうのか。

やがて、大広間へとたどり着いた月詠は辺りを見回した。気配は感じない。罠ではないかと、月詠は苦無に手をかける。

そこへ襖が開く音がした。ゆっくりとした足取りで近付いてくる。


「はは、やあやあ、ようこそお出でになられて」

「な、ぬしが、どうして?」
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