書庫(長編) 第二巻
□其ノ拾肆
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坂田銀時は黙ってケンカの様子を見つめた。現在の西高を牛耳っている一団と、銀時を頼ってきた者たちの争いを。
多勢に無勢とはまさにこの事で、数に勝る者たちは余裕綽々で攻撃を受け、反撃する。
「数で勝てねえのに、俺らにかないかよ」
「まだ、アイツを頼ってるみていだけど、助けてなんかくれねえぞ」
「うるせえ、数がどうとか問題じゃねえ。俺らは覚悟を見せるんだ。理屈じゃなくて」
力を込めた拳が、相手の顎を打ち抜く。まともに喰らい、崩れ落ちる姿を見て、双方の争いは激しくなる。しかし、時間が経つにつれ、やはり数の多少がものを言い、一人また一人と倒れていった。
銀時は拳を握り、向かおうとしたが、その一歩が踏み出せない。
「何やってんだ俺は。あいつらを、助けねえといけねえってのに」
何が決意を鈍らせる。銀時の脳裏に、自身が敗れた記憶がよみがえる。あのときも多勢に無勢ではあった。しかも最後は覚えていないという結果だった。
踏み出すことが怖い。しかし、助けたい。自分のために覚悟を見せた者たちを助けたい。踏み出して、暴れまわればいい。それだけなのに、何かで縛られたような感覚。銀時は自身の情けなさに失望した。
「ヘタレすぎる。俺はこんなに弱かったか?」
そんなとき、多勢に無勢であっても怯まなかった人物が銀時の頭に浮かぶ。
月詠であった。自身の信念を貫き、どんなに傷つこうとも多きに易々と流されない。彼女の勇姿を思い出すうち、銀時は自然と歩を進めていた。
自分でも驚くほど、乱闘の場へ堂々と乗り込んでいく。銀時に気づいた一人が殴りかかる。
拳を握り、相手に踏み込み、右腕を振り上げた。アゴにグリーンヒットした相手は、高く舞い上がる。
銀時は右拳を見つめ、ギラリと視線を前方へ向けた。多勢の方はピタリと行動を止め、無勢の方は喜色を露にする。
「おい、お前ら。銀さんの復活祭だ。派手にやられちゃいなさい」
銀時は気負うことなく、相手を一人一人倒していく。力の差は歴然とはいえ、これほどとは、と相手は思った。
1時間後、多勢を誇った相手は残らず地面に伏していた。助けられた者たちが銀時のもとへ駆け寄る。
「わりいな、助けるのが遅れちまって」
「俺ら、やっぱりダメッスね。坂田さんに迷惑かけて」
「ダメなんかじゃねえよ。お前らの方が強いさ、俺よりも。だから、俺も覚悟を決めた」
「坂田さん・・・」