書庫(記念・企画)
□夏ってのはどうしてこんな
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屋上から立ち去った月詠は、教室へ戻ると弁当を取り出した。そこへ何人かの女子がやってきた。
「月詠、屋上行ってた?」
「ああ、案の定、銀時が寝ておったでな。ひっぱたいてきたんじゃ」
「すごいね〜、出来ないよ。そんなこと」
「そうか?まったく問題はないと思うが」
「坂田君って、何考えてるかわかんないとこあるし。取っ付きにくいっていうか」
「それは、ぬしらがそう思っているだけじゃ。アイツはわったらと何ら変わることはありんせん」
「月詠だから言えるんだよ〜。あたしらは、ねえ」
「うん、掴み所がないというか」
「けっこう、謎!っていうか」
女子らの話に月詠はクスリと微笑んだ。
「そうでもない。ヤツほど分かりやすい男もおらんと思うがな。では、わっちはこれで」
月詠は弁当箱を持ち出すと、教室を後にした。途中でジュースを買ってから、向かったのは屋上だった。
屋上へ向かう途中、月詠はあまりの暑さに閉口していた。眉間にシワが寄り、眼光が鋭くなっていく。それを見た生徒たちは、月詠の前方を避ける。
やがて、屋上へ着いた月詠は、銀時がいるであろう一角に向かった。銀時はちょうど食事を始めるところであった。
「オイ、なにガンつけてんですか?コノヤロー」
「わっちがか?確かにあまりの暑さに眉間が寄っているとは思っておったが」
「んな顔してたら、寄り付くヤツも寄り付かねえよ!」
「なっ!もうよい!弁当を食べる」
「あの〜」
「何じゃ」
「どうして、さも当然にここで食おうとしてるんですか?」
銀時に問われ、月詠はしばらく無言になった。考えをまとめたのち、ようやく口を開いた。
「そ、それはぁ、教室で食べるよりは涼しいし、屋上なら人に邪魔されずにすむし」
「屋上は広いですよぉ。なのに、どうしてここで食べるわけ?」
「いい加減に黙りんす!ぬ、ぬしと共に食べてもやぶさかでないと思ったんじゃ、文句がありんすか!」
月詠の剣幕に、銀時は少したじろいだ。月詠は息を整えてから、弁当を広げ始めた。銀時もこれに続いて、弁当を食べ始める。
「にしても、あちいな。屋上でこれだと、午後なんて湯立っちまうぞ」
「黙って食べなんし。暑い暑い言うては、余計に暑くなる」
銀時はちらりと月詠を見た。夏制服は、体のラインが分かりやすい。スラリと伸びた手足、制服の上からでもわかる胸の膨らみ。それは視覚的に銀時を挑発するかのようであった。
「オメエ、肌白いけど、焼けねえのか?」
「赤くなるだけじゃ。ヒリヒリして痛いから、日焼け止めはつけておるが」
「そうか」
意外なほど、心が高ぶっているのを銀時は感じた。意識しているのを否定するほど、余計に意識してしまう。
月詠の顔にあった汗が、ツーッと下へ流れていく。顔から首へ、首から胸元へと伝う。
一連の流れを銀時は凝視していた。その動きが、銀時にはゆっくりと見えた。胸元へと汗が流れるのを、じっと見つめていた。
汗ばんでいるせいか、月詠の制服が体に張り付き、体のラインが強調された形になっていた。
「銀時、銀時」
「え、ああ」
「箸が止まっておりんす。早く食べねばならんじゃろ」
「おお、そうか!ちょっと暑さでボーッとしちまってな」
銀時は急いで、ご飯をかきこんだ。お約束通り、喉がつまって咳き込んでしまった。
「ほれ、何をしておるんじゃ」
月詠は銀時の背中を叩いて落ち着かせる。
どうにも変だ、銀時はそう思った。