書庫(長編)
□其ノ弐
2ページ/4ページ
応接間にて月詠は茶をすする。銀時と月詠は頻繁に会えるわけではない。月詠は吉原自警団・“百華”の頭であり、市中の見回り、各種事態の対処など忙しくしていた。銀時は吉原に出向いて、月詠に会ったりしていたが、こうして彼女から出向いてくるということはめったになかった。
「しばらく会えておらなんだからの。久々にぬしの顔が見たくなったのじゃ」
「へえ、そいつは嬉しいこと言ってくれるじゃねえの。お前からそんな言葉が出てくるとはな」
「まあ、ぬしの最近の近況は色々と聞いておる。あいかわらずらしいとか。顔を見れば、それは窺い知れるがの」
「けっ、何だよ。久々に会ったと思えばイヤミですかあ?言っとくがな、俺は・・・」
「銀時、こうして久しぶりに会えたのじゃ。なかなか会えなんだ詫びといってはなんじゃが、これから食事にでも行かぬか?」
「え、マジでか?」
「わっちの都合などで会えぬときが多かったし、今回はわっちが奢るぞ」
「マジでか!行く行く、行かせてもらいますよー!」
「わっちが奢るゆえ、どこで食べるかはわっちが指定させてもらいんす」
月詠は銀時にそう言い放った。銀時はタダでメシにありつける。そして、久々にゆっくりと月詠に会っていられるということで深く考えることなく、これを了承した。
善は急げと、銀時はそそくさと準備を始める。月詠の手には巾着袋があった。この巾着袋の中に、あるものを忍ばせて。
支度が整った銀時は月詠と連れ立って、外へと繰り出した。月詠も久しぶりに銀時と一緒の時間を過ごしていることは嬉しいことであった。しかし喜んでばかりもいられない。地上に上がる前、日輪が月詠に言っていた言葉を思い出す。
「月詠、何だか銀さんがこのままいくと糖尿病の2軍から1軍に昇格しそうな勢いなんだって。何とかしてやって。糖尿病になったら、万事屋の子供たちも困るし、あんただって困るだろ?ご都合設定がまかり通っている世界だって、限度というものがあるからね」
こうして自分と歩いている男が、糖尿病によって最悪亡くなってしまったら。『太く短く生きる!』銀時はそう言っていたが、月詠にしてみればバカ者と断じるほかない。もはや、銀時の命は彼一人の勝手でどうこうできるものではない。銀時はその事に気付いていないようだった。
月詠はここだと店を指差した。銀時は特に気にすることなく、店に向かって歩き始めた。店内に入り、店員に案内されて二人は席についた。