書庫(長編)

□其ノ拾
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桂が目にしたのは、食い散らかした皿の数々。満足そうにしている銀時と小耶太に、そこにもう一人の見たこともない男の姿だった。

「銀時、小耶太!何をやっている。決行まであと少しなんだぞ!それに、その男は誰だ!」

「はあ?何言ってんだ、ヅラぁ。俺ら、二人だもんなあ。これは日頃の行いがいい俺らへのお恵みだもの」
「ほうじゃ。これらはわしらへのお恵みじゃけえ。ありがたくちょうだいしたんじゃ」

「ひどいのう。あんなにご馳走したいうに。まぁだ、そげな事言うがか」

「・・・・・・」

「・・・・・・?」


銀時と小耶太は、声のする方を見る。


「ははは、いい加減泣けて来たぜよ。おまんら、全くもって、わしの事を抜きにしゆうき」

「ええと、どちらさん?」
「わしは、坂本辰馬言うモンじゃき。よろしう、って、うおっ!」


辰馬の言葉が終わらぬうちに、桂が斬りかかる。身を翻して、辰馬はこれを避ける。


「いきなり、何をしゆう?ちいと、話を聞いとうせ」
「問答無用。我ら以外に知る者あらば斬らねばならん。でなくば、これは失敗する」

「聞いとうせ。わしの話も聞いとうせ。わしも、今の現状はいかんと思うちょった。けんど、わしは頭が悪いき、どいたらええか分からんかったがじゃ」


銀時、小耶太、桂は辰馬の顔をじっと見つめた。話や表情に不審な点があれば、斬るつもりでいた。

しかし、話す辰馬の表情に後ろ暗いものは見受けられなかった。


「そん時、おまんらの話を聞いて、わしの心が躍ったんじゃ。わしもこれに加わって、現状を破る何らかの力になりたい。そう思ったんじゃ。そして、これまでおまんらの行動を見て、ついてきたちゅうわけじゃ。わしの話はこれまでじゃ。納得いかんなら、スパッと斬ってくれ。わしの道はこれまでじゃと諦めるき」

「気に入ったぜ。バカ結構じゃねえか。これからやる事もバカげてんだ。そんなら、バカは多いに越したこたぁねえし」

「まあ、一苺の恩もあるしの。俺らと一緒におとりになって暴れりゃええ。なら、ええっちゃろ?桂」

「ん、むう。仕方ない。時間もないし、そやつは銀時らに任せた。こちらは準備万端だ。お前らが動き次第、事を始められる」

「おう。派手に暴れてやっから、安心して火付けしてくれや」


桂が持ち場へ戻った後、銀時は辰馬に言った。


「後戻りは出来ねえぞ。今なら、笑って引き返せるんだぜ」

「そげな事を思うてるなら、最初からこげなとこには来んきに。ここからどう転ぶか分からんが、今のわしには、これ以外は思い付かん」

「ほんっとにバカだな」

「まあ、わしらも同じ穴の何とやらじゃがの」


そう言って、三人は笑い合った。決行の時間まで、あとわずかの事であった。


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