書庫(長編)

□其ノ拾弐
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「とまあ、ここまでが俺らが攘夷に入り込んだいきさつだ。その後は、色々な事を経て、現在に至ると」

「銀時ぃ、つくちゃんはその色々な事が聞きたいんじゃろ?一番の衝撃はそれじゃもんなあ」


月詠は色々な事について聞くつもりはなかった。『a・ma・to焼き討ち事件』以降、“白夜叉”という人格を生み出すほどに多くの命を奪い、苦しみ続けた事は想像に難くないからである。

坂田銀時の顔を見つめながら、月詠は彼の傍らで共に歩んでいくことを心に誓った。銀時の事を知るたびに、強いが脆さを併せ持った人間であると知った。

倒れそうなら、自分が銀時を支える。自分が倒れそうなら、銀時が支えてくれる。そんな信頼感とも安心感ともいえる感情が、銀時との生活で、月詠の心の中で育まれていった。


「どうかしたか?俺に何かついてるか?」

「ん、いや。何でもありんせん。それはそうと、攘夷派の本営とはどのようなものでありんすか?」

「ああ、そんな大したモンじゃねえよ。攘夷派は劣勢だし、大っぴらにすると、天人どもにやられかねないからな」


銀時が言うように、一旦は街中へ入ったものの、また人里離れた山中へ入っていく。しばらく歩いた後、衛兵に出くわした。


「何者だ」

「雷刃隊の坂田銀時と鳥尾小耶太だ。本営の呼び出しで参った」

「お疲れさまです。これより、本営にご案内いたします」


衛兵の先導により、銀時たちは本営に案内される。柵に囲まれた、木造の建物が見えてきた。

門が開かれ、銀時たちは中へと入った。案内した衛兵は、持ち場へと戻った。

月詠は辺りを見回した。本営というと、整った設備を想像していたが、あまり天紋嶺と大差ないと感じた。銀時はそんな月詠を見て、言葉をかける。


「本営のわりにはみそぼらしいだろ?」

「いや、別にそのような事は」

「天人だけならともかく、幕府からも締め付け食らってるからな。最近じゃあ、天人に擦り寄るヤツらが幅を利かせてるらしいし」


天人襲来以来、幕府では恭順派と抗戦派に意見が割れていた。恭順派は天人と国交を開こうとする派閥であり、抗戦派は天人を追い払おうとする派閥である。近年、抗戦派の要人が次々と暗殺された。これにより、幕府内では恭順派が大勢を占めている状況である。


「どうしようもねえ。幕府の抗戦派から支援もらっとるが、最近は減り気味じゃし」

「おお、銀時、小耶太ではないか。久しぶりだな、元気にしていたか?」

「ヅラちゃん」

「相変わらずだなあ、ヅラぁ。まあ、死んでなくて何よりだな」

「ヅラじゃない。桂だ」


長髪を束ね、軽装の武具に身を包んで、桂小太郎は銀時の目の前に現れた。銀時は月詠に桂を引き合わせた。


「ああ、こいつが桂小太郎。ヅラでいいから」

「凌爽隊隊長・桂小太郎と申す。初めて見る方だが、そなたは?」

「月詠でありんす。訳あって、雷刃隊に加わっておる。以後、よしなに」

「こちらこそ。いやあ、しっかりと挨拶の出来る御仁で安心した。そこの二人とはまったく違う。挨拶とは、人と人を結ぶ大切な」


桂の言葉が終わらぬうちに、銀時たちは立ち去ろうとした。慌てて桂は銀時たちの後を追う。


「話はすんだかあ?」

「これ、銀時!ヅラ殿が話しておる最中じゃろ。すまぬ、ヅラ殿」

「謝んなくていいよ。こいつの話は、ムダに長いんだから」

「お前が聞く耳を持たんからだ。月詠殿、俺はヅラ殿じゃない、桂だ」

ああでもない、こうでもないと話をしながら、4人は奥にある司令部へと入っていった。
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