書庫(長編)
□其ノ拾弐
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「どうも〜、雷刃隊で〜す」
銀時たちがやって来たときには、攘夷派諸隊の隊長格は、ほぼ集まっていた。形式的に会釈をする者、だんまりを決め込む者、対応はそれぞれだった。
「おお、金時!会いたかったぜよ」
「俺は銀時だっての」
「あと、ほわた。元気にしちょったかの」
「坂本隊長、自分は小耶太であります」
「すまんすまん。コニタンじゃったの」
「小耶太であります、って言ってるだろ、コノヤロー」
「名を間違えるなんぞ、失礼な事をして悪かった。ふーやーたーじゃったの」
「オイ、バカモジャ。命を天にやる覚悟は出来ちょるな?今から昇天させちゃる」
「あはは、ほんに弥太郎はせわしないのう」
小耶太が坂本に掴みかかろうとした時、大きな咳払いが場を静めた。
「ここは、戦いの場じゃあねえ。座れ、隊長坂本。副長鳥尾、いつもの事じゃ。お約束みたいなもんじゃろが」
二人を静めたのは、攘夷派諸隊の首魁・頬鳥居圭助であった。ボサボサの白髪混じりの頭に、あごに髭をたくわえている。攘夷戦争初期からの古強者であり、我の強い諸隊幹部を抑えられる数少ない存在である。
二人が元の場所に戻ったところで、軍議が始められた。
「じゃあ、始めるかい。諸君らのご活躍で、最近の戦いは天人どもに対して、優勢に戦いを進めておる」
この言葉に周囲の者たちは頷いた。頬鳥居は言葉を続けた。
「特に雷刃隊は最前線の天紋嶺にあって、天人たちと互角以上に戦い、目覚ましい戦果を上げておる」
「はいはい、頬鳥居さん。お褒めの言葉はありがたいけどな、補給が滞ってんのはどうなのよ?」
「隊長坂田。補給状況の悪化は諸隊とも同じじゃ。こちらも最大限、考慮しておるが、なかなかうまくいかぬ」
「だったら、ジリ貧になっていくだけだぜ。力の差は歴然、戦えば戦うだけキツくなるのはうちらだろ」
発言したのは、鬼兵隊隊長・高杉晋助である。武闘派部隊として、天人との戦いで名を上げていた。
「いい加減、本腰入れた攻勢かけねえとダメなんじゃねえか。じゃねえと、このまま尻すぼみになる」
「隊長高杉。その発言は乙である。我が方の戦力が整っておるうちに、天人どもに大打撃を与えねばならぬ。ならばこそ、慎重になるべきではないか?我らの総力を充てるならば、必ず勝たねばならぬ」
「であれば、こういうのはいかがか?」
「隊長桂。何ぞ策でもあるのか?」
「まずは雷刃隊が動く素振りを見せる。ヤツらにとっては、雷刃隊は目の上のタンコブ。守勢の雷刃隊が動けば、天人たちもこれに釣られて動くはず。その隙を逃さず、一気に総力をもって敵の本拠を衝く。さらには、引き返す天人たちを雷刃隊が追い討ちすれば、さらなる戦果も望めるはず」
桂の策に、おお、と感嘆の声が広がる。この策が成功すれば、攘夷派の勢力を大幅に押し上げることになり、情勢は一変するからだ。頬鳥居は腕組みをして、考えていた。
「隊長坂田」
「んあ?」
「どう思う?お前さんの隊を囮に使う、この策については」
「そうした事はわからねえ。だが、相手が乗ってくれるかどうか分からねえし、一概にうまくいくかってのも」
「ふむ。隊長坂田、だいぶ頭が回るようになったじゃねえか・・・ん?」
頬鳥居は、銀時の後ろにいる月詠に目を止めた。
「初めての顔じゃ。名は?」
「月詠でありんす。雷刃隊に参加したは、最近の事でありんす。以後よしなに」
頬鳥居はニヤリと笑うと、月詠に言葉をかけた。
「なかなかの面魂じゃねえかい。噂は聞いとる。なかなかの活躍ぶりだと。ならば月詠、今の策についての考えは?」
月詠はしばし考えた後、口を開いた。
「策自体はよいかと。じゃが、いきなり動いては天人側に勘繰られやすい。前フリとして、少しずつ動きを見せた方が相手も信じやすいと思いんす」
「くっ、はっはっはっ。なかなかの識見じゃねえか。今すぐにでも隊長職に就かせてえほどじゃ。月詠、お前さんは雷刃隊じゃあ、何してる?」
「隊士らからは“姐”と呼ばれておりんすが、特には何も」
「そうか。ならば、しっかりと支えてやんな。そこの隊長・副長は揃いも揃って、頭が足りんからのう」
「なっ、いきなり何言ってやがんだ。頬鳥居のおっさん!」
「ほうじゃ、うちらは頭が回らんのじゃねえ。使うてないだけじゃ」
「小耶太、ぬし、何だか訳が分からぬぞ」
頬鳥居は銀時らの反論を聞き流し、話を進める。
「月詠、ならば、お前さんを姐と呼ぼう。副長格の権限を有する者として遇する。軍議の参加も許す」
「え、わっちが?」
「うむ。先ほどの意見。なかなか言えるモンじゃあねえ。頼んだぜ」
「微力ではありますが、全力を尽くします。受け入れてくださり、感謝いたします」