書庫(長編)

□其ノ拾参
2ページ/4ページ

「で、白夜叉はいるのか?」

「白、夜叉でございますか?」

「ああ。まだ生きておるか」

「はい。天紋嶺に立て篭もっております。ヤツへの対応には、我らも困っておりまして」

「ふふ、ははははは。そうか、そうか、生きておったか。数年前、ヤツとは何度も戦った。訳あって、戦いから離れておったが、ヤツを忘れたことはない。楽しみじゃな、ヤツに再び交わることが」


白夜叉が生きている。その事が為朝雄の心を昂揚させる。


「強敵に出会うこと。それは極上の女に出会うものと似たり。いや、それ以上か。死ぬか生きるかの秤の中、それが釣り合う男、白夜叉。昂ぶる、早く会いたいぞ」


天人側の作戦は決した。奇しくも攘夷派も一大作戦を立案しており、どちらの策が成功するのか。それを巡る駆け引きが始まろうとしていた。

一方、攘夷派本営においては、軍議を終えた幹部たちが駐屯地へと戻ろうとしていた。坂田銀時、月詠、鳥尾小耶太も帰路へつこうとしていた。そんな彼らを呼び止める者たちがいた。


「銀時、死ぬんじゃねえぞ」

「おめえに言われるとはなあ。一番、死○星が見えてそうなのに言われると、いきなり次の日にポックリ逝ってしまいそうだな」

「金時ぃ、死んじゃあいかんぜよ」

「いや、一番、死にそうな感じしないのに言われるのもな」

「銀時、死ぬなよ」

「・・・」

「おい、銀時。なぜに無視する」

「うかつに話を返すと長くなりそうだし」


軽口をたたいて、高杉晋助、坂本辰馬、桂小太郎と別れの挨拶を交わす。死ぬか生きるかの戦場で、次は会えないかもしれない。だからこそ、笑って別れる。暗い顔で別れるのではなく、明るく冗談を言いながら。

銀時たちは本営を後にし、天紋嶺へと戻る。小耶太は銀時が持っている敷物に包まれた長物が気にかかった。


「銀時、それは何じゃ?」

「ん?ああ、ちょっと拝借してきた。本営で腐らせておくなら、俺らが使った方がいいって思ってな」

「ほうか。あ、そうじゃ。何か本営から酒肴が天紋嶺に届けたと伝えがあったわ。まあ、ささやかながらじゃがの」

「へえ、ちょうどいいや。月詠、今夜は遅ればせながら、お前の歓迎会やるから」

「わっちのか?そのような気遣い、無用でありんす。敵がいつ攻めてくるか分からぬし、元はと言えば、わっちが勝手に入り込んだんじゃし」

「まあ、歓迎会と名目はしているが、いい加減、あいつらだって機械じゃねえからな。発散させてやんねえと、まいっちまうし」


月詠は銀時を意外な、という表情で見た。確かに多くの兵士を抱えているということもあるだろうが、月詠が見知っていた銀時からは想像できなかったからである。


「何だよ、何か言いたいことあんのか?」

「いや。銀時、先ほどの言葉、誤りじゃった。歓迎会、ありがたく受けさせてもらいんす」

「よし、そうと決まれば、さっさと戻るぞ。あいつら先に届いた酒肴、手をつけてなけりゃあいいが」

「大丈夫じゃろう。しっかりと待っとるとは思うが、さっさと戻らんと抑えがきかんようになるけえ」


三人は天紋嶺への道を逸る気持ちで戻っていく。戻ったときには、日が西へと傾きかけた夕方の頃であった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ