書庫(長編)
□其ノ拾参
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「で、白夜叉はいるのか?」
「白、夜叉でございますか?」
「ああ。まだ生きておるか」
「はい。天紋嶺に立て篭もっております。ヤツへの対応には、我らも困っておりまして」
「ふふ、ははははは。そうか、そうか、生きておったか。数年前、ヤツとは何度も戦った。訳あって、戦いから離れておったが、ヤツを忘れたことはない。楽しみじゃな、ヤツに再び交わることが」
白夜叉が生きている。その事が為朝雄の心を昂揚させる。
「強敵に出会うこと。それは極上の女に出会うものと似たり。いや、それ以上か。死ぬか生きるかの秤の中、それが釣り合う男、白夜叉。昂ぶる、早く会いたいぞ」
天人側の作戦は決した。奇しくも攘夷派も一大作戦を立案しており、どちらの策が成功するのか。それを巡る駆け引きが始まろうとしていた。
一方、攘夷派本営においては、軍議を終えた幹部たちが駐屯地へと戻ろうとしていた。坂田銀時、月詠、鳥尾小耶太も帰路へつこうとしていた。そんな彼らを呼び止める者たちがいた。
「銀時、死ぬんじゃねえぞ」
「おめえに言われるとはなあ。一番、死○星が見えてそうなのに言われると、いきなり次の日にポックリ逝ってしまいそうだな」
「金時ぃ、死んじゃあいかんぜよ」
「いや、一番、死にそうな感じしないのに言われるのもな」
「銀時、死ぬなよ」
「・・・」
「おい、銀時。なぜに無視する」
「うかつに話を返すと長くなりそうだし」
軽口をたたいて、高杉晋助、坂本辰馬、桂小太郎と別れの挨拶を交わす。死ぬか生きるかの戦場で、次は会えないかもしれない。だからこそ、笑って別れる。暗い顔で別れるのではなく、明るく冗談を言いながら。
銀時たちは本営を後にし、天紋嶺へと戻る。小耶太は銀時が持っている敷物に包まれた長物が気にかかった。
「銀時、それは何じゃ?」
「ん?ああ、ちょっと拝借してきた。本営で腐らせておくなら、俺らが使った方がいいって思ってな」
「ほうか。あ、そうじゃ。何か本営から酒肴が天紋嶺に届けたと伝えがあったわ。まあ、ささやかながらじゃがの」
「へえ、ちょうどいいや。月詠、今夜は遅ればせながら、お前の歓迎会やるから」
「わっちのか?そのような気遣い、無用でありんす。敵がいつ攻めてくるか分からぬし、元はと言えば、わっちが勝手に入り込んだんじゃし」
「まあ、歓迎会と名目はしているが、いい加減、あいつらだって機械じゃねえからな。発散させてやんねえと、まいっちまうし」
月詠は銀時を意外な、という表情で見た。確かに多くの兵士を抱えているということもあるだろうが、月詠が見知っていた銀時からは想像できなかったからである。
「何だよ、何か言いたいことあんのか?」
「いや。銀時、先ほどの言葉、誤りじゃった。歓迎会、ありがたく受けさせてもらいんす」
「よし、そうと決まれば、さっさと戻るぞ。あいつら先に届いた酒肴、手をつけてなけりゃあいいが」
「大丈夫じゃろう。しっかりと待っとるとは思うが、さっさと戻らんと抑えがきかんようになるけえ」
三人は天紋嶺への道を逸る気持ちで戻っていく。戻ったときには、日が西へと傾きかけた夕方の頃であった。