書庫(長編)

□其ノ参
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苦無が飛んできた方向を睨み、悪玉菌は叫んだ。


「誰だ、てめえら!武器からして、初顔みてえだな。だったら挨拶するのが筋だろうが」

「それは失礼した。何分、来たのがつい先ほどでな。来てみると、修羅場であったからの。まずは止めるのが筋でありんしょ?」


声はどんどんと大きくなり、悪玉菌は相手の姿を視認することができた。金色の髪に、黒の着物に身を包んだ女性の姿がそこにあった。


「ならばここで挨拶を。わっちらは、“ビフィズス乳酸菌”でありんす!」


ビフィズス乳酸菌。モデルは月詠である。普通の乳酸菌より腸内で生き抜く力が強く、善玉菌と強く結び付いて腸内環境の正常化に努める細菌なのである。

「ビフィズス乳酸菌?ちったあ、マトモなのが入ってきたわけか。数も多いし、イキも良さそうだ」

「ここはわっちらに免じて退いてはくれぬか?仕切り直して、また再戦するというのは」

「はあ?何をバカな事を。仕掛けてきたのはそこの善玉菌からだ。こちらとしちゃあ、もっと戦わねえと割りに合わねえんだよ」

「確かに。じゃが、仕切り直すならここが一番妥当だと思いんす。呑まなければ、わっちらも介入することになりんす」


ビフィズス乳酸菌と悪玉菌はしばらく睨み合っていた。しばらくして、悪玉菌は退くことに決めた。


「まあ、いっか。あんたの顔に免じて、今回は退いてやる。そこでお寝んねしてるヤツに伝えておいてくれ。次はないってな」


悪玉菌はゆっくりと退いていく。それに従うかのように、他の悪玉菌も退く。

ビフィズス乳酸菌は、他のビフィズス乳酸菌らに怪我人の搬送と、現在の状況把握を命じた。

しばらくして、善玉菌は目を覚ました。そばには、善玉菌と見慣れぬ者たちがいた。


「お、お前らは」

「安心しなんし。わっちらは味方じゃ。ぬしが悪玉菌にやられそうなところに出くわしてな」

「はは、そりゃあとんだ醜態をさらしちまったな」

「わっちらはビフィズス乳酸菌と申す。ここへ来たのが、つい先ほどでな。遅れてしまって申し訳ない」

「いや、おかげで助かった。乳酸菌てことは、体外から来たってわけだろ?色々なとこを乗り越えたにしちゃあ、あんたらは元気良さそうに見えるけど」


ビフィズス乳酸菌は仲間たちと顔を見合わせた。考えてみたものの、善玉菌らの問いが分からなかった。しばらく考えたのち、ビフィズス乳酸菌は善玉菌に尋ねた。


「すまぬ、わっちらは普通に来ただけで、五体満足でここに来るのが当然じゃと思っておった」

「じゃあ、お前ら、死海も普通に乗り越えたってわけか?あそこで普通の乳酸菌は死んだり、力を大きく消耗するってのに」

「死海?ああ、確かに大きな海のようなものはあったような」


そう言って、ビフィズス乳酸菌は死海での出来事を話し始めた。
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