書庫(長編)

□其ノ拾肆
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天紋嶺の広場に雷刃隊の面々が集まってきた。空には夜の帳が下りて、辺りはすっかり暗くなっていた。やがて、月詠が坂田銀時と鳥尾小耶太と共に広場へやって来た。

広場には四隅に篝火が焚かれ、中央には薪を並べた、俗にいうキャンプファイヤーが天上に向かって火柱を立てていた。


銀時らが座って、一同の器に酒がなみなみとつがれていく。全員に酒が行き渡ったところで、銀時は立ち上がって口を開いた。


「今回は、ここにいる月詠の歓迎会と、今までよく戦ってくれたことを労う会だ。月詠は俺らのトコに来て、まだ日は浅いが懸命に頑張ってくれている。俺の場合は、月詠のおかげで助かっている面もあったしな。みんなも本当によく戦ってくれた。あ、語りすぎだな。今日はほどほどに酔っぱらってくれ。以上!」


銀時の挨拶が終わったあと、続いて月詠が立ち上がって挨拶をする。


「月詠でありんす。わっちは雷刃隊に名を連ねて、まだ日が経ってはおらぬ。じゃが、ぬしらと共に天人どもを倒したい。その気持ちはぬしらと同じじゃ。微力ではあるが、これからも力を尽くしていきたい。これからもよしなに」


たくさんの拍手が広場中に鳴り響いた。そして、小耶太が乾杯の音頭をとることになった。杯を手に持ち、すっくと立ち上がった小耶太は一呼吸おいて言った。


「まあ、多くは言わん。皆、いつもご苦労さん。わしは、雷刃隊を家族のように、この天紋嶺を家のように思うちょる。そんな中に、こうして月詠姐が入ってきた。それをわしは嬉しく思う。あ、諸隊には正式に姐として認められとるからな。これからも頑張っていこうと思いました。はい、では乾杯!」


小耶太の乾杯のあと、一同がこれに続いて、乾杯と言って杯を口にする。拍手のあと、一同は歓談に入った。この光景を見た月詠は、隣にいる銀時に言った。


「楽しげじゃな」

「まあな。戦いばかりで、それ以外の娯楽ってモンがねえからな。てめえが望んで入ったんだから、四の五の言うこともねえんだけど。とはいえ、やっぱこうした楽しげなモンは必要だし、あいつらだって明日をも知れぬ命だ。こういう場は目いっぱい楽しんでる。ほんと、たまにだから」

「銀時・・・」

「それに、こうして目いっぱい騒げば、死んだ仲間だって来てくれるかもしれねえだろ?」

「そう、じゃな。こうした状況であれば、仕方のない事じゃし。わっちも明日にはどうなるか分からぬ。じゃから、こうして楽しむ。こうして、多くの仲間に迎えられ、わっちは嬉しく思う」

「お前のこと、ここのみんなはよく慕ってるみてえだし、信頼もしている。先は見えねえ戦いだが、まあよろしく頼むわ」


銀時が頭を下げると、月詠も慌ててこれに続いて頭を下げる。その滑稽さがおかしくて、二人は同時に声を上げて笑った。そこへ挨拶が終わった小耶太がやってくる。


「おい、主賓の杯に酒がないっちゃ。こりゃあいかん、銀時、酒をつくちゃんに注いじゃりや」


銀時は今さらながらこれに気付いて、月詠に杯を持たせて、そこに酒を注いだ。


「つくちゃんも頑張ってくれるし、わしらもこれまで以上に頑張らんといかんっちゃ。じゃあ、これからもってことで乾杯!」


三人は杯を合わせて、乾杯した。ぐいっと酒を飲み干していく。銀時と小耶太が気持ち良さそうに、歓喜の表情を見せる。しかし、月詠は飲み干したあと、様子が明らかに変だった。


「ヒック!」


月詠のしゃっくりを聞いて、小耶太はちゃかすように『可愛らしい』と誉めた。しかし、そんな和やかムードはここまでだった。

そして、狂乱の宴の幕が上がったのだった。
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