書庫(長編)
□其ノ拾肆
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月詠はフラフラと顔を左右に動かし始めた。焦点が合っておらず、明らかに酔っ払いのそれである。月詠は杯を銀時の前に差し出して言った。
「注げ」
「お、おう。イケル口かあ、吉原で鍛えられてんだしなあ」
「おい」
「ん?何かあったか?」
「それじゃあ、足りねえだろうがあ!!!もっと、酒をなみなみと注げってんだ、バカヤロー!!!」
月詠は銀時の顔面を殴ると、酒瓶をひったくってゴクゴクとラッパ飲みを始めた。この光景に周囲は唖然としていた。意を決して、小耶太が言った。
「まあまあ、つくちゃん、酒に飲まれちょうがな。まずは落ちついて」
「落ち着けぇ?私はいっつも落ち着いてんだ、どこ見て言ってんだあああ!!!」
月詠は飲み干した酒瓶で小耶太の頭を殴打した。不意を衝かれた小耶太は、もんどりうって倒れこんだ。意識を取り戻した銀時が、小耶太の元に歩み寄る。
「小耶太、しっかりしろ」
「銀時、どうなっちょる。つくちゃん、何かあったんか?」
「ありゃあ、何かに取り憑かれてる。でなきゃあ、説明のしようがねえ」
「銀時、おめえ、つくちゃんの今の力をスカウターで見れるか?」
「バカ野郎、そんなの出来るわけが」
「いんや、おめえなら出来る。ジ○ンプキャラに例えることで、おめえはそいつの力を見ることが出来るじゃろうが」
「つっても、あいつをどのキャラに」
「ほうじゃの・・・あ、これはどうじゃ。ド○ゴンボ○ルのラ○チさん。今のつくちゃんなら、これに当てはまるじゃろ?」
説明しよう。ジ○ンプ読者歴の長い銀時は、ジャン○のキャラクターに、力を測る人物を重ね合わせることによって、力を数値化して強さを調べることができるのだ。
銀時は親指を右のこめかみに押し当てた。これにより、銀時の右目は相手の力を推し量ることができるのだった。ちなみに、『つよさ、かしこさ、すばやさ、せつなさ、こころづよさ』という項目で、相手を数値化して測るようになっている。
「う〜ん、何てことだ。数値がどんどん上がっていく。しかも、どの数値も跳ね上がるように・・・やべえ、このままじゃあ、うわああああ!!!」
「銀時!」
右目をおさえながら、銀時がうずくまる。
「目がぁ、目がぁぁぁ!!!」
「つくちゃんを測ることは出来たんか?」
「俺のスカウターの最大数値を振り切りやがった。こいつはやべえかもな」
「そうか。銀時、おめえは目が回復するまで待ってろ。その間、俺がつくちゃんを止めちゃる」
小耶太は月詠の前に立ちはだかった。月詠の前に立つ小耶太の目は、戦いに赴くときのそれであった。ニヤリと月詠は笑みをこぼして、小耶太に話しかける。
「おっ、どうした?やっと遊んでくれる気になったのか?」
「おおさ。これ以上、他のモンと遊ばれると困るけえの。わしは意外とヤキモチじゃけえ」
「へえ、じゃあ、お前とお遊びいたしましょうか?」
「お遊び願います」
その言葉のあと、二人の姿が消えた。拳と腕がぶつかり合う音が聞こえた。小耶太の左拳を月詠が右手を使って、払いのけていた。
二人はニヤリと笑い合う。互いの実力をこれで認め合ったのだ。
「やるじゃねえか、お前。楽しめそうだなあ、この調子でやってくれな」
「つくちゃん、こんなあ、わしも気を張らんとやられちまうか」
言葉を交わしたあと、二人は後へ飛び退いた。間合いを取って、呼吸を整える。小耶太は渾身の一撃で、この事態を終わらせようと思ったのだが、月詠は事も無げにこれを受け止めた。長引くかもしれない。小耶太は対面に立っている月詠を見ながら思った。