書庫(長編)

□其ノ肆
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腸内の勢力を大きく変えるであろう。善玉菌、悪玉菌、双方が予感していた。

双方とも動員できる菌力を結集させており、戦場周辺は物々しい雰囲気を醸し出していた。

善玉菌、悪玉菌は睨み合ったまま動かない。そんな中、善玉菌はビフィズス乳酸菌に尋ねた。


「おい、“隠し玉”は本当に来るのか?」

「うむ。多少、時間はかかるだろうがの」

「じゃあ、それが来るまでしのぐしかないか」

「いや、善玉菌。ここは・・・」


何事かビフィズス乳酸菌は、善玉菌に耳打ちした。話を聞き終わった善玉菌は、驚きの表情でビフィズス乳酸菌を見る。ビフィズス乳酸菌は目を閉じて、口元に笑みを浮かべていた。

悪玉菌は意外な光景を目にしていた。善玉菌側から攻撃を仕掛けてきたからだ。数的に劣る善玉菌側から攻めてくるとは考えもしなかった。

悪玉菌側は予想外の展開に浮き足立つ。混乱をきたした悪玉菌側は、次々と善玉菌側によって打ち倒されていく。まさに機先を制した形になった善玉菌側は、どんどんと攻め寄せる。

しかし、時間が経過するごとに悪玉菌側は平静を取り戻す。足並みを揃え、本格的に反攻を開始する。真っ正面からの勝負では、数の差が徐々に重みを増していく。


「おい、やべえぞ!押し込まれてんぞ」

「落ち着け、これくらいは想定の内だろが。まだ踏ん張れよ、後ろに道なんざねえんだからな」

「調子づきやがって、落ち着けばこんなもんよ!善玉菌の奴ら、押し包んで殺っちまえ!!!」


悪玉菌側が本格的に反攻を開始するその時、悪玉菌の左側面から黒い物体が勢いよく飛んできた。

前がかりになっていた悪玉菌側は、側面への備えは無防備であった。飛んできた黒い物体、それは苦無だった。


「ぐああああ」

「ありったけの苦無を奴等にぶち込んでやれ、蜂の巣にしてやるんじゃ!」


間断なく、ビフィズス乳酸菌の遠距離攻撃は続いた。降り止まぬ雨のごとく、苦無は悪玉菌に襲い掛かる。やがて、ビフィズス乳酸菌の苦無が尽きると、小太刀を手にして悪玉菌側へ向かっていった。

挟撃された悪玉菌側は、その数を減らしていった。


「おい、そろそろ頃合だ」

「ああ、そうだな。よ〜し、退けぇ!退けぇ!!!」


善玉菌とビフィズス乳酸菌は、一斉に撤退を開始した。


「逃がすな、追えぇ」


悪玉菌のボス格は奇妙な違和感を感じていた。劣勢にあっての先制攻撃、何かがあると考えてはいた。そして、側面からのビフィズス乳酸菌の攻撃。確かに痛手は被った。しかし、悪玉菌側と善玉菌側の戦力差は変わってはいない。

何かある。そう考えた。悪玉菌の多数は、善玉菌らにつられて追撃を開始している。軽挙妄動は慎むべきであったが、ここは流れに任せてみようと、ゆっくりではあったが追撃を開始していった。
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