書庫(長編)

□其ノ漆
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何だかんだと話し込んで、時間はあっという間に過ぎていった。時計を見た銀時が、それではと帰るポーズをとった。


「あら、銀さん帰るのかい?」

「えらく長居しちまったし、もうこんな時間だから帰ります」

「そうだね。楽しかったよ、またいつでも来ておくれ。うちは大歓迎だからさ。あたし、銀さんのこと気に入っちゃったから」

「銀さん、オイラも待ってるから。また遊びに来てね」

「そんな事言われちゃ、また行かせてもらおうかね。そん時はよろしく」

「月詠、銀さんを送ってやんな」

「な、何でわっちが」

「行ってきな」

「わ、わかりんした」


そんなこんなで、わっちは銀時を送ることになった。二人並んで色街を歩く。夜空と派手派手しいネオンの光、その中を歩いていった。


「まったく、日輪ときたら。彼氏彼女の仲かしら?などと。有り得ぬ話を持ち出して、わっちらは最近出会ったばかりじゃと言うにのう」

「そりゃそうだ。何もねえのに、勘繰られてもなあ。何もねえのに」


互いが互いを否定し合い、関係がないと結論付ける。そうやって頑なに否定するのは、日輪の言葉をわっちらが意識しておったからかもしれぬ。その時のわっちらには、そんな考えは思いもしなかった。


「のう、銀時」

「ん?」

「ぬしには、彼女はおるのか?」

「彼女?ああ、言い寄ってくるヤツは何人かいるなあ。うちの高校だけでなく、他の高校からも」


表情から見るに、その話は本当であるとわっちは思った。飾ることなく、淡々と話しておる様子からじゃった。まあ、黙っておれば、美男子の類いであろうと思う。わっちの目からじゃが。


「まあ、彼女だの作ることはねえな」

「ほう、何故じゃ?」

「そいつらは俺じゃなくて、西高の番である俺が好きなんだろうなっての見え見えだし、それに」

「それに?」

「俺の彼女ってなったら、他校の奴らがそいつを狙ってくるだろ?ほら、俺って敵が多いから」

「そうか、それはそうじゃろうな」

「結局、一人が気楽だからな。余計なモンはしょいたくないわけ。あ、ここでいいわ。じゃあな、晴太と日輪さんによろしくな」

「うむ。伝えておく」


銀時は前を向いて、歩き出した。思わずわっちは呼び止めた。


「銀時!」

「ん?どうしたよ」

「・・・いや、何でもありんせん」

「そうか、じゃあまたな。あんま日輪さんらを心配させんじゃねえぞ」

「余計なお世話じゃ!」


あのとき、何故に銀時を呼び止めたのか。わっちには分からなかった。ただ、遠くなっていく背中を見つめ、一人が気楽だと言った銀時の言葉が嘘だと思うほど、その背中は孤独で寂しげに見えた。
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