書庫(長編)

□其ノ肆
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吉原の界隈では“百華”による見回りと検査が行われていた。

しかし、百華の捜索を持ってしても、犯人を捕らえることは出来なかった。

そんな中、吉原を数名の男たちが出歩くようになった。手には長物を携えている。まさに、連続殺人犯のそれと一致する。

百華の者らが呼び止めて、持っている長物を検査する。長めの木刀や模造刀などであった。


「自分の身くらい、守れねえとカッコ悪いっすから。最近、ここらは物騒でしょ?」


こう言われれば、百華の者たちに返す言葉はなかった。そんなとき、キャアッと悲鳴が聞こえる。

またも百華の者が殺されていたのだった。悲鳴の上がった方に百華の者たちは向かっていく。

検査を受けた者たちは、互いの顔を見合わせて、ほくそ笑みを見せた。

時間帯も場所も不確定。絞り込めることも出来ないまま、時間を浪費するばかりであった。


「あっ、月詠姐、おかえり」

「ただいま。湯浴みして少し寝てから、百華の番所へ参る」

「ご飯は?」

「番所で食べてきた。風呂の用意を頼む」


そう言って、月詠は晴太に頼んだあと、フラフラと自分の部屋へと戻っていった。

しばらくして、風呂が沸いたことを晴太は月詠に伝えに行く。部屋に入ったときは、月詠は完全に寝入っていた。


「月詠姐、お風呂沸いてるよ。月詠姐ったら!」

「ん、ああ、すまぬな」


目を擦りながら、月詠は風呂へと向かった。晴太は日輪に言った。


「月詠姐、すごく疲れてる。ご飯食べたって言ってたけど、おそらく食べてないと思うよ」

「そうかい。おそらく、寝食忘れて駆け回ったんだろうさ。晴太、月詠が上がったら茶の間へ来るよう、言っておくれ。それまでには食事の支度はしておくから」


月詠が湯浴みを終えて、風呂場から出ると、晴太が月詠を呼び止めた。そして、茶の間へと月詠を連れていった。


「疲れただろう?ほら、ご飯出来てるから食べな」

「わっちは食べてきた。ご飯は無用・・・」


食事の匂いに触発されたか、月詠のお腹がグウと音を立てた。観念したのか、月詠は席について食事を始めた。

しかし、箸はあまり進まない。それを見た日輪が言葉をかける。


「月詠、しっかり食べないと仕事にならないよ」

「わかっておりんす。じゃが、犠牲になった者たちのことを思うと」

「気持ちはわかるよ。けどね、犠牲になった者たちを考えるならこそ、しっかりと食べて、力をつけないと。そして、事件の早期解決に努める。それが生きているあんたの責務じゃないか」


日輪は諭すように言った。月詠はうんうんと頷いて、止まっていた箸を動かす。しかし、こうしている間も百華の者が殺されているかもしれない。知らせが来ないよう祈りながら、月詠は黙々と食事を採っていた。
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