書庫(長編)
□其ノ肆
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一方、吉原のとある家屋にて、滝嶺綾人は配下である攘夷浪士らと作戦を練っていた。
「今のところ、作戦は順調です。百華は完全に撹乱されているようで」
「そうか。百華も意外に情けないな。まだまだ、この作戦は続けよう」
「なぜに一般人には手を出さないのですか?」
「吉原の守りの要は百華だ。それが脆いものだと知らしめる。百華への憎悪をかき立たせ、客及び吉原内部から百華排斥の気運を上げていく。そうすれば、吉原など造作もなくガタガタになる」
周囲の者らが、おお、と感嘆の声を上げる。その声を無視するかのように、綾人は話を続ける。
「今の段階はうまくいっている。うまくいくのは当たり前なんだ。俺以外、何もしていないわけだからな。しばらくはこのままで。一般人への危害の有無に関しては、俺が指示を出す。それを聞かずにやったと俺に知れたら・・・命はないものと思えよ」
「はっ、ははっ!」
「腐っても百華はここの自警団組織。諜報に関しても優れてるはずだ。尻尾を掴まれないよう、しっかりと注意を払え。よし、俺の別命があるまでは今の動きを続けろ」
綾人は散会を命じた。一人となったあと、綾人はぼんやりと天井を見つめた。脳裏に様々な情景が浮かんでは消える。斬殺された死体を泣きながら見送った女と子供。かわるがわるに陵辱される女。火に包まれた屋敷。思い出していくうち、綾人の心に憎悪の炎が宿っていく。
「はは、まだまだ。これからこれから」
数日後、銀時がひのやを訪ねてきた。
「よお、月詠はいるのかい?」
「ごめんね、銀さん。月詠は今いないの。百華の事で手いっぱいだから」
「え、マジでか?いつから帰ってないの?」
「かれこれ、一週間は帰ってないわね。やっぱり、被害を被っているわけだしね。それに、知ってるでしょ?あの子の性格は」
「ああ、十分すぎるほどにな。あいつ、追い詰められる十歩前でって言ったのによ。日輪さん、やっぱ騒動は」
「ええ、収まっていない。むしろ、拡がっているわ。標的にされているのは百華だけ。意図するのが何なのか、今のところは、あたしも検討がつかないわ」
「何だよ、じゃあ俺が今から百華へ行ってくるから。で、サクッと」
「銀さん、まだ月詠に助け舟を出すのはやめて。月詠はまだ諦めてない。今は見ていてほしいの」
「つってもさあ、あいつが助けを求めてくる段階って、ヤバめのときか大怪我するかのどっちかだと思うけど」
ひのやにて、二人はどうしたものかと思案にくれた。まったく進展がない現状に、どうしていいかわからない。難しい問題が横たわっていた。