書庫(長編)

□其ノ伍
2ページ/4ページ



善玉菌はビフィズス乳酸菌の拘束を解いた。


「善玉菌、来てくんなしたか。見捨ててもよかったのに」

「バカ、見捨てねえよ。もう、あんな思いはごめんだぜ。もう、あんな」


二匹は悪玉菌と距離をとった。起き上がった悪玉菌が、先ほど起こった事項を理解するのに少しの時間を要した。


「やってくれんじゃねえか。引きこもりはやめたのかよ?」

「やめちゃいねえぜ」


悪玉菌が見ると、柵を持った善玉菌とビフィズス乳酸菌らが前へ押し出している。柵に邪魔されて動けない悪玉菌相手に、互角以上の戦いぶりを見せている。


「おい、悪玉菌」

「あ?」

「こいつをナイスデカプリ娘って言ったよな?」

「はっ、それがどうした?否定でもするのか」

「いや、デカプリ娘に関しては激しく同意だわ。だがな」


善玉菌は、ビフィズス乳酸菌を左手で自分の方へと抱き寄せ、右手に持った木刀を突きつけて言った。


「こいつはな、極上デカプリ娘なんだよ、コノヤロー」

「ば、バカ者!何が極上デカプリ娘じゃ」

「まあいい。さっさと始めるか。こいつ倒して、這いつくばってる目の前で、まぐわってやるからな」

「あまり大言壮語は言わんがいい。叶わぬときは大恥をかくぞ」


会話が途切れると、三匹は一斉に斬り結んだ。あまりの衝撃に、刃と木刀から火花が散った。


「てめーはここから消え失せる。締めの言葉考えとけ!」

「必要ねえ、完全にお前をここで消すからな」


一合、十合と二匹は斬り合う。これまで幾度も戦ってきたのだから、互いの戦い方は熟知している。

悪玉菌は善玉菌の斬撃を余裕綽々で左へと避ける。しかし、そこにビフィズス乳酸菌がいた。ビフィズス乳酸菌の小太刀が煌めく。

二振りの小太刀によって、悪玉菌の胸に十字の傷がつけられた。悪玉菌は間合いをとって、間隔を空ける。完全に失念していた。今回は勝手が違う。それをあらためて知った思いがした。

他に目を向ければ、数ではまだ悪玉菌側が有利であった。どちらも懸命に戦っている。まさに一進一退の攻防が続く。双方にもはや策はない。己の勝利を信じて、武を奮っているのだった。

ビフィズス乳酸菌は耳を澄ました。ドドドと殺到する音を聞き取った。善玉菌にじわりと近寄って、耳打ちをする。


「来るぞ、隠し玉が」


その直後、周りが気づくほどに音は大きくなった。これが一体何であるか、ビフィズス乳酸菌以外は思いを巡らせていた。



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ