書庫(長編)
□其ノ伍
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善玉菌はビフィズス乳酸菌の拘束を解いた。
「善玉菌、来てくんなしたか。見捨ててもよかったのに」
「バカ、見捨てねえよ。もう、あんな思いはごめんだぜ。もう、あんな」
二匹は悪玉菌と距離をとった。起き上がった悪玉菌が、先ほど起こった事項を理解するのに少しの時間を要した。
「やってくれんじゃねえか。引きこもりはやめたのかよ?」
「やめちゃいねえぜ」
悪玉菌が見ると、柵を持った善玉菌とビフィズス乳酸菌らが前へ押し出している。柵に邪魔されて動けない悪玉菌相手に、互角以上の戦いぶりを見せている。
「おい、悪玉菌」
「あ?」
「こいつをナイスデカプリ娘って言ったよな?」
「はっ、それがどうした?否定でもするのか」
「いや、デカプリ娘に関しては激しく同意だわ。だがな」
善玉菌は、ビフィズス乳酸菌を左手で自分の方へと抱き寄せ、右手に持った木刀を突きつけて言った。
「こいつはな、極上デカプリ娘なんだよ、コノヤロー」
「ば、バカ者!何が極上デカプリ娘じゃ」
「まあいい。さっさと始めるか。こいつ倒して、這いつくばってる目の前で、まぐわってやるからな」
「あまり大言壮語は言わんがいい。叶わぬときは大恥をかくぞ」
会話が途切れると、三匹は一斉に斬り結んだ。あまりの衝撃に、刃と木刀から火花が散った。
「てめーはここから消え失せる。締めの言葉考えとけ!」
「必要ねえ、完全にお前をここで消すからな」
一合、十合と二匹は斬り合う。これまで幾度も戦ってきたのだから、互いの戦い方は熟知している。
悪玉菌は善玉菌の斬撃を余裕綽々で左へと避ける。しかし、そこにビフィズス乳酸菌がいた。ビフィズス乳酸菌の小太刀が煌めく。
二振りの小太刀によって、悪玉菌の胸に十字の傷がつけられた。悪玉菌は間合いをとって、間隔を空ける。完全に失念していた。今回は勝手が違う。それをあらためて知った思いがした。
他に目を向ければ、数ではまだ悪玉菌側が有利であった。どちらも懸命に戦っている。まさに一進一退の攻防が続く。双方にもはや策はない。己の勝利を信じて、武を奮っているのだった。
ビフィズス乳酸菌は耳を澄ました。ドドドと殺到する音を聞き取った。善玉菌にじわりと近寄って、耳打ちをする。
「来るぞ、隠し玉が」
その直後、周りが気づくほどに音は大きくなった。これが一体何であるか、ビフィズス乳酸菌以外は思いを巡らせていた。