書庫(長編)

□其ノ拾伍
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月詠は動かない。先ほどまでの激しい音との差もあり、辺りは静寂に包まれた。銀時も戻ってきた。銀時は月詠を見下ろしている小耶太に尋ねた。


「オイ、まさか」

「死んどらんよ。それにこげなんで死んだら、この先使いモンにゃあならんて。こうして気絶しておる間に、酔いも抜けるじゃろ。これにて散会でもすっか?」


小耶太は笑いながら立ち去っていく。銀時は月詠を気にしながらも、小耶太のもとへとついていく。そう、これで終わるはずだった。これで。

銀時は後ろに得体の知れぬ気を感じた。銀時は前を歩く小耶太を呼び止めた。


「なんならぁ。ちょっと飲んでから寝よう思ったのに」

「終わってねえ。まだ終わってねえんだよ。起きた、あいつが」

「あいつ?」


二人は一斉に振り返った。そこには立ち上がり、二人を睨みつける月詠の姿があった。さすがの二人もこれには困惑した。


「効いて、ねえのか?俺らがあんなにまで、打ち込んだのに」

「酒パワーじゃろか?まあええ、戦いは俺らに有利。また返り討ちにすりゃあええ」

「つうかさ、水ガブ飲みさせて、吐かせた方が早くね?」

「さすがに強いな。こりゃあ、“奥の手”を出すしかないようだ。まさか、奥の手を解禁することになるなんてな。感謝しな、めったに見られやしないんだから」


月詠は落ち着きはらった表情で言った。その様子に二人は警戒の念を抱いた。しかし、それが何であるか。まったく見当もつかなかった。

くいっくいっと、月詠は指を折り曲げ、手招きをする。その艶かしい指の動きは、妙な色気をまとって、二人を誘った。


「わからんが、突っ込むぞ」

「銀時?」

「どんな奥の手があろうと、力で突き破る。俺とお前なら、それができる!」

「ああ、そげだな」

「「うおおおおおお!!!!!」」


二人は月詠目掛けて突進した。この一撃で終わりにする。その意志が、今までで一番の速度で月詠へと向かわせた。

月詠は二人の突進にも、慌てた素振りを見せない。そして、二人を見据えて呟いた。


「・・・ガイコツ・ポコポコ」


月詠は、両手で自らの胸元をがばっと開いた。そして、体を左へ傾けて、右手で着物のスリットをゆっくりと上げはじめた。胸元からは、深い胸の谷間が惜しげなくのぞいており、スリットからは肉付きのよい太もも、さらにその先の領域までも見えそうなほどだった。

さらに、月詠は声色を変えて、乙女チックな口調で二人に語りかけるように言った。


「私のすべて・・・あなたになら捧げてもいい。ねえ、ねえ、好きになっても・・・いい、ですか?」


ピタリ、銀時と小耶太の動きが止まった。その距離、わずか1m。月詠の目が輝いた。手早く服装を直すと、一気に二人を仕留めにかかる。

息もつかせず、月詠は突き、蹴りを的確に次々と命中させる。二人はまさにサンドバッグ状態であった。身動きもできず、月詠のされるがままであった。

雨あられのような攻撃を終え、月詠は後ろへ退く。そして、またも小声で言った。


「おつかれさま」

「「うげえあっっ!!!」」


二人は血を吐きながら、前のめりに倒れた。最後に立っていたのは、月詠であった。ダメージが残っているのか、フラフラしながらも、月詠は当たりかまわず隊士らに絡みはじめた。もはや、彼女を止めることなど皆無であった。

翌朝、銀時と小耶太はダメージのせいで行動不能、月詠は二日酔いとダメージのせいで、これまた行動不能。隊士らも、月詠の絡みのせいで行動不能。雷刃隊はこの日、完全休業状態だったという。


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