書庫(長編)
□其ノ拾捌
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砲撃の音を聞いた、凌爽隊隊長・桂小太郎は先を急いだ。そこへある一団が桂を待っていた。
「坂本、何をしている?お前は先に行ったはず」
「あはは、そうなんじゃがのう。いつの間にやら、わしらしかおらんくなってしもうて。したら、この砲撃じゃ」
「味方が危ない。砲撃音のする方へ向かうぞ。一隊よりはありがたい。行くぞ坂本」
「おおよ!」
凌爽隊と快援隊が進んでいく。砲撃の音が近くなっていく。やがて坂本辰馬が呟くように言った。
「なんじゃあ、これは」
坂本が見たのは、入口を巨石で塞がれたもの。この向こうに味方がいる。
「桂、あの巨石を越えたところに味方がおる。お前らの爆弾で何とかならんか?」
桂は巨石で塞がれた入口を見上げる。辺りを確かめながら、崩れやすい地点を探す。
「ああも巨石が連なっては。我らの手持ちでは、どうにもならん」
「なら、登っていくしかないのう。快援隊、俺に続け!」
坂本は前方の巨石群を登り始める。兵士らもこれに続く。坂本の前方に、銃声と共に石に弾かれた火花が散った。左右から撃ちかけられている。
快援隊も応戦するが、火力に勝る天人側から、数倍もの反撃がやってくる。坂本は引き返すしかなかった。
これに気付いた天人たちが、銃撃を加えてくる。両隊は木陰に隠れる。
「どげするんじゃ。あの中はどう考えても普通じゃないぜよ。仲間の呻き声も聞こえてきた。何とかしちゃらんといかんき」
「分かってるさ!だが、近付けん」
「なら、お前が後方で援護射撃せえ。わしらは登っていって」
「今はそれしか手はないな。いや待て、登りきったら崖上から奇襲をかけよう。そうすれば砲撃は止む」
かくして、快援隊はまたも巨石群をよじ登り、凌爽隊はこれを援護することに決まった。
快援隊はすぐに巨石に取りついて登り始める。たちまち、左右の崖上からの攻撃を受ける。そこへ凌爽隊は左右の崖上に向かって、弓矢と鉄砲を放った。快援隊は攻撃が止んだところを勢いよく登っていく。
凌爽隊の攻撃に辟易したのか、天人はあるものを崖からコロコロと転がした。凌爽隊近くに転がったのは時限爆弾であった。
援護射撃のため、まとまっていた凌爽隊は、これによって傷ついてしまう。しかも、わざと時差をつけているために、いつ爆発するかわからない。凌爽隊は一時撤退することになり、桂は悔しげに退いた。
快援隊への攻撃は止むことなく続いた。その攻撃は先頭を行く坂本に集中する。
「おっほお、こげに狙わんでもええじゃないか。わしゃあ、ちっくとここを越えたいだけじゃきぃ」
「隊長!」
坂本の頭部に銃弾が命中した。グラリとのけ反った坂本は、ゴロゴロと転げ落ちていった。
転げ落ちた坂本を、凌爽隊の隊士が後方へ引っ張り込む。
「坂本、坂本!」
桂に呼び掛けられて、坂本は目を覚ました。しばらくぼうっとした面持ちで、辺りを見回した。
「どうやら、あの世ではないようじゃな。またも命を拾うたぜよ」
「悪運だな。そこまで行くと」
坂本は額に手をやると、大きな凹凸に触れた。兜を脱いでみると、額の金属部分に弾痕があった。坂本を狙った銃弾が兜に跳ね返り、彼自身はその衝撃で後ろへ転げ落ちたようだった。
やがて、快援隊の隊士らも戻ってきた。死傷者が出ている。
「桂、入口以外では入れんがか?」
「それは俺も考えた。しかし、この場全体が天人側の巣と思った方が良さそうだ。周りにも備えがあるとみて間違いない」
「けんど、こげなとこで時間を」
「わかっている!」
桂が珍しく声を荒げた。
「言われなくてもわかっている。だが、どうあってもこの囲みを突破できぬ。せめて、もう一隊いてくれれば」