書庫(長編)
□其ノ拾玖
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攘夷派諸隊が大敗した。そこから時を少しばかり戻す。
雷刃隊は本営での武器の確保(追い剥ぎともいうが)を終わらせ、先行した攘夷派諸隊に追い付こうとする。先頭を行くは、隊長の坂田銀時と月詠である。
「とんだとこで時間を食っちまった。予想外の抵抗に面食らっちまった」
「・・・」
「奴ら、なかなかのもんだった。選ぶ俺らも難儀したしな」
「・・・・・・」
「おい、何とか言えよ」
「何か言うことがあったかえ?わっちにゃ、何もありんせん」
「いや、まあいいです」
月詠は先を急ぐと言いながら、武器の確保に勤しむ銀時らが理解できなかったし、もどかしくもあった。
攘夷派の総力をかけた大戦に参加したくないと言えば嘘になる。気持ちが急いていた。それゆえに、のんびりしていた雷刃隊に苛立っていたのだった。
やがて、前方の方から轟音がこだました。それから断続的に砲撃音が聞こえてくる。
「な、何だよ、こりゃあ。うるさくて聞こえやしねえよ」
「始まったのか?」
「いや、その前に戦ってはいただろうよ」
銀時が指し示した先には、攘夷派、天人らの死体があった。
「うちらにゃ、あんな轟音する大砲持ってねえからな。おそらく天人の攻撃を食らってんだな。急ぐぞ、みんなが危ねえ」
銀時は先を急ごうとする。しばらくののち、銀時は後ろに引っ張られる感触があり、立ち止まった。振り返ると、月詠が銀時の陣羽織を掴んでいた。
「離せ」
「嫌じゃ」
「急ぐんだ、さっさとその手を離せ」
「嫌じゃ」
「何だってんだよ、急ぎてえのはお前だろが」
月詠は力なく、陣羽織を掴んでいた手を離した。そして、絞り出すように口を開いた。
「撤退じゃ。わっちらは天紋嶺に引き返そう」
「はあ?」
「あの砲撃の凄まじさ、尋常ではない。おそらく敵の罠にかかったようじゃ。これからわっちらが向かっていくは、無駄死に等しい。じゃから、わっちらは引き返すんじゃ」
「罠にかかってる仲間がいれば、助けてやるのが筋じゃねえのか?」
「それはそうじゃ。じゃが、死ぬと分かっておる戦場に仲間を連れていくのか?」
「みんなが死ぬとは限らねえだろ。それに俺らが助ければ、みんな生き残る。お前は見殺しにしろというのか?」
月詠は返答に窮した。しかし、死なせたくないと思う気持ちが勝った。
「力技に頼る天人がこのような策をかけたは、わっちらを完全に消すためじゃ。もう時間的猶予はない。早く態勢を整えねば、わっちらはここで全滅してしまいんす。この戦いが最後ではなかろう。まずは生き延びて」
「大きな違いだな」
銀時は月詠に言い放つ。
「確かにお前の言い分も道理。だけどな、死ぬと分かっていても、負けると分かっていても、戦わなきゃいけない時がある。俺はそれが今だと思ってる。見殺しにしたと思われるのはたくさんだ。なら、お前だけ引き返せ。止めはしねえから」
銀時は月詠を振り切って、前に進もうとする。月詠は銀時の前に立ちはだかる。やがて、座り込んだ月詠は、背負っていた仕込み刀を引き抜くと、刃を頸動脈に押しあてた。