書庫(長編)
□其ノ拾玖
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月詠の行動に、雷刃隊の一同が驚いた。
「おい、止めろ!」
「姐さん、早まらないでください!」
「聞き入られぬ以上、生きていくのが忍びない。ぬしらが死んでいくのを目にするは耐えられぬ。ならばここで死なせてくんなんし!」
月詠は押しあてた刃に力を込める。首筋に刃の感触が伝わる。目を閉じて、頸動脈を断とうとした、そのとき。
「わかった!撤退する。雷刃隊は天紋嶺へ撤退する」
鳴り止まぬ砲撃間にあっても、月詠には銀時の声がはっきり聞こえた。それを聞いて、月詠の手から刀が力なく落ちた。
「聞き入れてくれて、ありがとう。そして、すまなんだ」
「何も謝ることはねえ。状況を見て、隊のこと考えて出したんだろ?」
「じゃが、そのために仲間を」
「汚名は俺がかぶってやるさ。まずは俺らの行く先だ。引き返すのか?」
「いや、別の道がよい。手の込んだ策を仕掛けた敵のこと。伏兵を退路に潜ませていてもおかしくはない。みすみす殺されに行くようなものじゃ。前に進み、そこから退路を探そう」
銀時は月詠の言に従った。月詠の言葉は的を得ていた。概して、進撃路はすなわち退路にもなる。ここに兵を伏せて襲撃するのは兵法の常道である。
雷刃隊は前へ進んだ。後ろからは音がしない。後方からの襲撃は、今のところ可能性が低い。しばらく歩いていくと、右側に細い道、左側に大きい道があった。どちらを進めばよいか、銀時は思案する。
「う〜ん、細い道と広い道、どっちがいいんだろうかな。何かして決めてしまうか?くじかなんかで」
月詠は考えた。細い道は逃げるときには目立たずに行ける。広い道ならば、敵が大軍で待ち構えていると予想される。考えた末、自分が思うところを銀時に述べた。
「わっちは、広い道を通るのがよいと思いんす」
月詠の言葉に、一同は驚いた。危険を避けるなら、細い道が適している。そう思ったからだ。
「細い道は確かに逃げるならば適しておる。しかし、それは敵もそう思ってるはず。ならば、裏をかいて広い道を進んだらどうじゃ?」
「そこらへんはわかんねえからな。お前に任せた。まあ、敵に出くわせば、一点突破で行くしかねえわな。じゃあ、行くとしますか?」
雷刃隊は広い道を選択して、進み始めた。伏兵の気配もなく、一同は月詠の見識の深さに舌を巻いた。
「姐さん、本当に裏をかいたみたいですね。これだと無事に戻れますね」
「気を抜くでなし。天紋嶺に無事に戻るまで、何があるかわからぬぞ」
銀時は月詠に言った。
「ここらへんで休もうぜ。こいつらも歩き通しだ。じゃねえと、天紋嶺までもたねえぞ」
「そうじゃな。おお、あそこに大きな木がありんす。そこで休もう」
雷刃隊は休息をとることにした。しかし、その姿を見ている者がいる。為朝雄と四天王であった。