書庫(長編)
□其ノ弐拾
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為朝雄の矢は、心臓のわずか上に命中した。為朝雄は冷静にこの状況を見極める。
「わずかに逸れたか。女を逃がした際に、体を傾けた。それゆえに的が動いたか」
「為朝雄様、錐ン痔と廉敦が襲撃に入ります」
麻鳥衣怒の知らせを、為朝雄は黙って聞いていた。やがて、為朝雄は矢を手に取り始めた。
「さて、どうするか」
坂田銀時は刺さった矢を抜こうとする。月詠が慌てた様子で銀時の傍に駆け寄る。銀時はぐっと月詠を抱き寄せて、耳元で話した。
「狼狽えるんじゃねえ。お前が指揮をとれ。おそらく敵が来る。お前が狼狽えたら、あいつらはどうなる?」
「じゃが、銀時は」
「心配ねえと言いてえが、この矢、突き抜けて木にまで達してんだわ。抜いてしまうのに時間かかる。それまで頼むぜ」
月詠は戦士の顔に戻っていた。そして、銀時に言った。
「任せてくんなんし。ぬしには近寄らせぬ。このわっちが」
銀時から離れると、月詠は矢継ぎ早に指示を出す。
「鉄砲隊は構えておけ、どこから来るかわからぬ。この木の周辺にて戦い、決して深追いはならん。密集して敵の襲撃に備えよ」
さすがに百華の頭領として、実績のある月詠である。銀時を守るための最善策をすぐさま講じた。
雷刃隊は長く最前線で戦い続けた歴戦の部隊である。月詠の意図を理解し、これに応じた動きをとった。
やがて、無数の殺気が雷刃隊を覆う。咆哮と共に天人たちが攻めてきた。月詠は十分に引き付けたのち、号令を出した。
「撃てぇ!」
銃声が轟き渡る。天人らが銃撃を受けて倒れる。しかし、それを踏み越えて新たな天人たちが攻め寄せる。その都度、月詠は鉄砲と弓矢を駆使して撃退する。
「やるなあ、声を聞けば女か?勇ましいねえ」
「しかも、場慣れしてやがんな。まあ、何にしてもだ。出張りませう」
「そうするか」
錐ン痔と廉敦が前に進む。錐ン痔は長大なスピアを、廉敦は斬馬刀を手にして、雷刃隊と対峙する。
「ほええ、うちらの武器を使ってますよ。驚いたでせう」
「廉敦、奴らは最前線で戦ってきてる。武器の扱いは慣れたもんなんだろ」
二人は雷刃隊を誉めたのち、行動を開始する。一瞬のうちに、錐ン痔はスピアを雷刃隊の隊士に突き立てた。
「ようこそ。そして、さようなら」
突き立てた隊士を天高く放り投げる。錐ン痔は月詠を見ながら言った。
「こいつは気が強そうだ。そして、ベッピンさん?であるか。まあ、そちらに行けばはっきり分かるか」
「来るなら来なんし。じゃがな」
月詠の言葉のあと、錐ン痔は音を立てて、飛来する苦無を弾き飛ばした。
「薔薇に触るならそっと手で触れねば、トゲに刺さって死んでしまいんす」
「ほう、ますます興味深い。好きよ、そういうの」