書庫(長編)
□其ノ弐拾
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銀時は矢を引き抜こうとするが、なかなかに抜けない。傷の痛みにより、力が入らないということもあるのだが。
隊士数名が駆け寄って、引き抜こうとするが、なかなか抜けない。
為朝雄は弓を引き絞り、ピタリと止まった時点で放った。猛然と銀時に向かっていく矢を、月詠は苦無を投げて防ごうとする。
しかし、矢は苦無を弾き、全く減速することなく、先ほど銀時が受けた矢の後ろに刺さった。ニ本連なった形で、矢はさらに深く刺さった。
「ぐつぁ、ああぁっっ!!!」
「銀時!」
「さすがだな、神業と言うべきか」
「すっっげえ〜、あんなの出来ないな。あ、さっさとやってしまいませう」
銀時の事が気にかかるものの、月詠は苦無を放って、天人たちの動きを止める。苦戦である。雷刃隊だからこそ持ちこたえられてる、月詠はそう思った。
そんな中、天人たちが左へ移動した。隊士らは思わずそれにつられ、追撃し始める。
「待て、追ってはならん。追うでなし」
残ったのは、銀時と月詠、数十人の隊士。錐ン痔と廉敦が攻撃を始める。二人は猛威を奮って、隊士らを片付ける。廉敦は斬馬刀を振り下ろせば、隊士は真っ二つに斬られる。しっくりこないようで、廉敦は斬馬刀を何回も振り直すしぐさをする。
錐ン痔が月詠の前に立ちはだかる。
「薔薇のトゲを所望だ。せいぜい深く刺しておくことだ」
「ふん、ならば望み通りに!」
先手を取らんと、月詠が錐ン痔の懐へ飛び込んだ。錐ン痔は月詠の早さに、内心驚いたが、すぐにこれに応じた。
「はは、鋭いな」
「喋っておれる余裕が気に食わんな」
月詠はすぐに下に移り、小太刀で脇腹を刺した。しかし、手応えはなかった。
「あんたのトゲは届かないようだな」
「まだじゃ、これからじゃ」
廉敦は重い斬馬刀に見合わぬほどの速い斬撃を繰り出して、隊士らを始末した。一対二の状況となり、月詠は苦戦を覚悟した。
「錐ン痔、強い?こいつは」
「ああ、強いぞ。なかなかに楽しませてくれる」
「ええっ、面白そう!一緒に殺ろう、殺りませう」
「くうっ、二人とも強い。小耶太がいてくれれば、どうにでもなろうに」
月詠は天紋嶺で留守を守る、鳥尾小耶太の不在を嘆いた。
銀時は見ているだけで、何も出来ない自分を情けなく思った。深々と刺さった矢を引き抜こうとするが、抜くには至らない。
「こんなとこで苦しんで、女のアイツにおんぶにだっこで。情けねえだろ、んなとこで終われるかってんだ。死んでたまるかってんだ、うぬおおぉっっ!」
銀時は力を入れて、引き抜こうとする。痛みに気が抜けそうになるも、月詠を守らねば、一人で戦わせたくないという強い思いが、少しずつ矢を引き戻していく。
「か、俺の、俺の仲間は、死なせたくねえ。ぐおおっっ、こんなモン」
目を見開き、銀時は矢を引き抜いた。その矢を銀時は、錐ン痔と廉敦目掛けて投げる。
唸りを上げて、矢は錐ン痔と廉敦の背中に命中した。背中に衝撃を感じた二人は振り返った。そこにはふらつきながらも、自分等を睨む白髪の男の姿があった。
「うちの姐に手を出すな、コノヤロー。次はねえぞ、次は確実に仕留めてやるからな」
そう言ったあと、銀時は崩れ落ちるように倒れた。