書庫(長編)

□其ノ弐拾
3ページ/4ページ



為朝雄はこの様子を見ると、満足した表情を見せる。


「引き上げる」

「あともう少しで白夜叉は死にます。どうして引く必要があるんですか?」

「為朝雄様、強くなるとでもお思いですか?あの男が」


楼逵と麻鳥衣怒は、この状況で退くという為朝雄に疑問を呈した。


「楼逵の意見が近いかもな。二矢を引き抜き、なおかつそれを錐ン痔と廉敦に投げる。ふふふ、なかなかに見せてくれる。あやつ、この死線を越えれば、まだまだ強くなる」

「お言葉ですが、我らは傭兵。しっかりと仕事を果たしてから」

「果たしておるぞ。攘夷派の命脈はこれで尽きる。奴らは滅びぬように、ちまちまと戦うのみよ。わしは攘夷だの開国だの、そんなことはどうでもよい。命のやり取りを、それをわしと対等な舞台で戦える男がここにおる。その男と戦うことが望みよ」

「為朝雄様」

「わかんないわぁ、そういうのは」

「引き上げる」


為朝雄は丘を下りていく。手応えと好敵手のさらなる強さを期待して。


崩れ落ちた銀時を月詠が抱き止めた。駿足を使って、瞬く間に銀時の傍にやってきたのだった。

陣羽織が紅く染まっていく。血が泉のように溢れてくる。何とかして止血しようとするが、止まることはなかった。

その間に、錐ン痔と廉敦がやってきた。


「なかなかにやるな。なるほど、為朝雄様がご執心なのもわかるかな」

「けっこう痛かったよ。早くやってしまいませう」

「ぬしらには触れさせぬ。わっちにとっても、雷刃隊にとっても、大事な男でありんす」


月詠は右手で銀時を抱き寄せ、左手で小太刀を前に出して、二人を牽制する。守らなければならない。自分を守ってくれた銀時を。様々な感情を呼び起こしてくれた銀時を。

お構いなしに二人はやってくる。月詠は苦無を放つ。しかし、二人は気にすることなくズンズンと進んでいく。苦無もなくなり、月詠は銀時を木に寄りかからせて、飛び出していった。


「隙が多い」

「おっぱいが大きい」


錐ン痔の突きと、廉敦の振り下ろしにより、月詠の小太刀は粉々に砕かれた。

呆然と月詠は立ちすくむ。自分の打つ手はもはやない。一瞬の思考停止のあと、月詠は銀時の傍に駆け寄った。

銀時は苦しそうに、はあはあと息が荒くなっている。打つ手のない月詠に何ができるか。仕込み刀を引き抜くと、月詠は銀時の首筋にあてる。


「すまぬ、わっちのせいじゃ。ぬしを守れなんだ。あの世で存分に詫びよう。ぬしのワガママも聞いてやりんす。銀時、少し先に逝ってくれ。わっちもすぐに参るゆえ」


月詠の頬に一筋の涙が伝う。守りきれない自分の無力さに対する悔しさか、大事な存在を失おうとしている悲しみか。涙の理由など、月詠にはもうどうでもよかった。

このまま、敵の手で討たせたくない。ならば、自分の手で。月詠は銀時と共に自害の道を選ぼうとしていた。


NEXT>>あとがき



次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ